ビジネス

2022.06.10

スーパーヨットの受け入れが「ビジネスの高付加価値化」の起爆剤に

SYL Japan 稲葉健太代表(左) Urban Cabin Institute パートナー山田理絵(右)


山田:フランスの簡素な田舎町が、スーパーヨットの修理場になったことで、船の修理や内装、家具の職人、ファッションブランドなどが集まって、すごくラグジュアリーな街に変身したと聞いたことがあります。

稲葉:50メートル級のヨットの年間予算5億円のうち、半分はメンテナンス代。そこに参入できると日本の産業にとっては大きなプラスになります。その先には、日本でもスーパーヨットが作れるようになり、付加価値の高い船の仕事が増やせるのでないかという期待もあります。

現状、日本の造船は商船が多く、そこでスーパーヨットをメンテナンスするというのは、例えると大型トラックを作っている人に高級車の修理を依頼するようなもの。その裾野を広げていくことが、次のビジネスチャンスにも繋がると考えています。

山田:まさにこの対談のテーマであるビジネスの高付加価値化ですね。繊維業などが船の内装を手がけるなど、日本の職人技や技術の高さをもってすれば、十分ポテンシャルがありますね。



稲葉:そうですね。スーパーヨットの造船はヨーロッパでたいへん盛んですが、それは、大型商船の造船についてはドックが大きく新しい日本に負けたため、小さくても付加価値の高いスーパーヨットに舵を切ったという背景があります。日本の建築・内装業は優れているので、その技術が融合すれば、付加価値の高い産業を作れるのではないでしょうか。

山田:オーストラリアが国を挙げてスーパーヨットを誘致していると聞きますが、具体的にどんなことをしているのですか?

稲葉:オーストラリアはかなり早くから国内を自由に航行できる制度や外国船籍船籍スーパーヨットのチャーター解禁など、規制緩和を進めています。隣のニュージーランドも、アメリカズカップ開催に伴いスーパーヨットを誘致を強化しています。

スーパーヨットはグローバルな視点で捉え、リージョナルで考える必要があります。特に日本に関係するのは香港、シンガポール、インドネシア、タイ、オーストラリア、ニュージーランド、タヒチなどのアジア太平洋地域。東京五輪後には多くがニュージーランドのアメリカズカップを訪れる予定でした。

山田:プロモーションも周辺国の状況を考えながら設計しなければなりませんね。

稲葉:はい、とはいえ国家間の誘致合戦なので、いろんな形で日本の魅力を発信していく必要があります。日本が手をこまねいていては、日本を通過して南半球を目指してしまいますから。



山田:ハイエンドトラベラーや富裕層対応を語る際に、「なぜ一部の層を優遇するのか」といった声も耳にしますが、ハイエンド層がもたらす効果や利点についてどうお考えですか?

稲葉:日本の富裕層は国内ではお金を使わない傾向にあります。だから、自分のお金で来てくれる外国人に、質のいいサービスを提供して、対価をもらう仕組みを作る。そうすると、日本の富裕層も刺激を受けると思います。あとはやはり、港などのインフラの有効活用による新規産業を創出するきっかけにもなります。

山田:ところで、スーパーヨット客には地元の人と交わりたいという要望はありますか。オーナーの成功者と子供が学校で交流できたりすると、子どもたちを開眼させる意味ですごくいいのではと思います。

稲葉:実際に何度かやったことあります。学校に行って寄付したり、NGOの取り組みに賛同してパッと小切手を切ったり、アート作品を寄贈された方もいらっしゃいました。世界的な富裕層は、いいと思うものに対してはきちんと対価を払いますね。

文=山田理絵

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