ビジネス

2022.06.10

スーパーヨットの受け入れが「ビジネスの高付加価値化」の起爆剤に

SYL Japan 稲葉健太代表(左) Urban Cabin Institute パートナー山田理絵(右)


山田:スーパーヨットというと、ジェフ・ベゾスが自身のヨットを運ぶために、ロッテルダムの歴史あるコーニングスハーフェン橋を解体するという話も浮上していて、大変な非難にあっています。この件をどうご覧になっていますか?

稲葉:個人的な予測ですが、オーナー本人にはその情報が伝わっていなかった可能性が高いと思います。なぜなら、スーパーヨットのオーナーは歴史的建造物や環境への意識が高く、むしろ保護に関心を持っています。そういったことが先に耳に入っていれば、別のかたちを取ったはずです。

山田:超富裕層はわがままだとも聞きますが、実際のところはいかがでしょう?

稲葉:そんなことないのですが、周りでサポートしている人たちが先回りしてレストランをつ3も4つも予約して、直前にキャンセルしたりするので、外からはわがままに見えてしまうのでしょう。オーナー自身はプライバシー、セキュリティがあるところで落ち着いた時間を過ごすことを願っています。ホテルにはプライバシーはあまりないし、セキュリティも船ほどは高くないので。



山田:占有感も大事でしょうね。特にどのようなことに価値を感じられるのでしょう。

稲葉:人がやってないことを経験したいという傾向が、日本に来るオーナーは特に強いと思います。世界一周の途中に日本に寄る方が多く、新しいものに対する好奇心が非常に強い。そこに対してきちんとしたものを提供できるようにしていかなければと考えています。

山田:BLACK CUBE(今回の対談会場)にも、ハイエンドトラベラーをお迎えすることがありますが、たいていパーソナル・アシスタントから「とにかく他でできない特別体験をしたい」と要望があります。ここは自然の火事で焼けた空間ですが、焼けた空間を持つことも、そこに入って自分自身と対話する機会も珍しく、皆さん驚かれます。どんな体験が求められますか?

稲葉:伊勢神宮や宮島などの神社仏閣が非常に人気なことからも分かるように、精神性に歴史観、建築のダイナミズムが分かるような場所、職人技を体感できるところを好まれます。刀鍛冶や日本の酒蔵など、見たことのない、聞いたことのない、行ったことのないところはこれまでも喜んでいただきました。

山田:逆に彼らに足りなかったり欠けているものはあるのでしょうか。

稲葉:足りないのは時間ですね。オーナーは本当はもっと船でゆっくりしたいけど、ビジネスがあるから旅行中でも各地に飛んで行かなければならない。そのためにも無駄な時間は極力省きたい。20分以上の移動はNG、と言われることはよくあります。



山田:スーパーヨットの購入者が増えていると聞きますが、一隻どのくらいするのでしょう?

稲葉:1メートル1億円と言われていましたが、今は物流の混乱、インフレでかなり値が上がっています。それでも、通常約300隻くらいの年間建造量が、昨年は約1000隻に増えたそうです。また、今注文しても新艇が手に入るのは2026年以降と言われています。手に入らないからなおさら欲しい、という状況です。

リーマンショックの時も心配されましたが、実際には世界的に大幅な金融緩和が行われて、船もどんどん増え、大きくなりました。コロナ禍でリーマンショック時の何十倍の金融緩和が行われているので、大きくなっていくのかなと考えられます。富裕層の金融資産がさらに増える中で、それに見合った商品とサービスを提供すべきで、日本はそれができる条件が揃っています。

山田:どのような条件が揃っているのですか?
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文=山田理絵

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