ビジネス

2022.06.10

スーパーヨットの受け入れが「ビジネスの高付加価値化」の起爆剤に

SYL Japan 稲葉健太代表(左) Urban Cabin Institute パートナー山田理絵(右)


稲葉:富裕層に喜んでいただくためには、綺麗な海と気候だけでなく、食と歴史、そして知的好奇心を満たす文化が必要です。穏やかな瀬戸内海、美しい海に360度囲まれた沖縄、自然豊かな北海道。そのすべてが食材も豊かです。地方都市も発展していて、面白いところが多い。

これまで海路での日本観光にはスポットが当たっていなかったので、スーパーヨットが来航できる環境を整えることで、地方や離島にも大きな経済効果が期待できるのでは、と考えています。



山田:ハイエンドトラベラーの誘致は、地方創生にもつながると私も国に提言しています。

稲葉:スーパーヨットは動く五つ星ホテルです。よって、高級ホテルのあるなしは関係なくなります。石垣島をクルージングして、沖縄本島、宮古島、鹿児島、長崎、瀬戸内海と点々とするのは、私もおすすめしている人気の観光ルートです。文化も食彩も海の色も、移動にあわせてだんだんと変わっていきます。

歴史を振り返ってみても、江戸時代から日本にはヨーロッパ船が来ていました。特に瀬戸内海は多島海で静かで晴天率が高く、北前船など海上交通が発展した素晴らしい海域だ、と昔から多くの文献に書かれています。日本にこんなところがあるのかと、現代において再発見していただく機会にもなるでしょう。

山田:魅力が多い一方、課題や改善点を挙げるとしたらなんでしょう。

稲葉:まず入国手続きですが、これはだいぶ規制緩和が進んできました。

2つ目がマリーナの整備。日本の港は漁港や商船用港湾がほとんどで、プライベートのヨットの利用に最適化されているところが少ないんです。欧米のマリーナはきれいで、浮桟橋と給電・給水設備があるのがデフォルト。日本のマリーナは高齢化が進んでいるため、受け入れ施設をもう少し整える必要があります。

3つ目はマーケティング。日本がスーパーヨットの受入を本気で進めていることを、モナコなど海外の有名ボートショーで宣伝したり、逆にそうしたイベントを誘致することも必要です。英領バミューダ諸島でアメリカズカップが開催された時は、あの小さな島に130隻ものスーパーヨットが集まりました。理由や目的があればスーパーヨットはやってきます。


モナコヨットショー

山田:3点目のマーケティングに関しては、分野横断がカギになると考えています。ハイエンド層の関心の高いのは、アートや建築、デザイン、食、イノベーション、ウェルネス。彼らは、それぞれに対して知見があり、それらを横断したライフスタイルをおくっていますが、日本のプレイヤーはみなバラバラに動いていて連携できていません。分野を横断したチームになって、世界に発信することが大切ではないかと。

稲葉:いいですね。特に超富裕層は目が厳しいので、それに応えられるようなサービスを提供できるネットワークに私たちも参加したい。海外ではVIP対応も進んでいますが、日本では基本的に一律、あるいは老舗は常連優先、人気店は列に並ばないといい席には座れないという考え方がまだまだ一般的です。そのスタイルも尊重しますが、ビジネスチャンスを捉える意味でも、超富裕層を満足させるような仕組みも必要です。

山田:サービス提供者が世界の動向を理解する必要もありますね。

稲葉:初めて石垣島にスーパーヨットが来た時は、10日で約3000万円を地元で消費しました。そうすると、地元の方の見方・考え方も劇的に変わったんです。「地元経済にとって本当にいい」と、肌で感じてもらえるいい機会になりました。また、この先、桟橋が整備され、メンテナンスの施設にも予算がつくと、造船業に対しても大きなインパクトになると思っています。来ると船は必ずメンテナンスや修繕が必要になるので。
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文=山田理絵

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