今回のロシアの侵略行為は、国連の機能不全、世界のエネルギー問題の悪化、専制主義と民主主義の対立の鮮明化など、さまざまな問題を提起している。本稿では、ロシアのウクライナ侵略が、日本での安全保障、憲法改正をめぐる議論へどのような影響を与える(べき)かについて考察する。
ロシアがウクライナ侵略の言い訳にしたのが、NATOが東方拡大の約束を破ったからというものである。侵略が始まってからの停戦交渉では、ロシアはウクライナの中立化と非武装化を条件に挙げている。「非武装中立」とは、懐かしい言葉だ。1950年代から1960年代にかけて、日本では旧社会党を中心に主張されていた「非武装中立論」は、日本の憲法第9条に規定される「戦争の放棄」が理論的支柱になっていた。
戦争の放棄、戦力の不保持を定めた第9条はよく知られている。この条文を素直に読めば、日本は「戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を「永久に放棄する」、そして、「陸海空軍」は「保持しない」わけだから、憲法は非武装を明確に規定していて、自衛隊の存在は憲法違反ということになる。
しかし、「非武装」であれば、日本の領土・領海に侵入して占領したいという外国勢力が現れても不思議ではない。非武装でも独立を脅かされないためには、日本に対して悪意をもって攻撃を仕掛ける国がないことが条件だろう。
だが、この点についての非武装中立論者の論理は頼りなかった。日本が非武装化(米軍排除、自衛隊解散)すれば、周辺国は日本を攻撃する理由はない、というのにとどまる。憲法第9条を学ぶ中学生でも、この論理には現実味を感じないだろう。