経済・社会

2022.05.10 18:00

「非武装中立」が幻想にすぎないことを、明白に示した歴史的事件


第9条ほど有名ではないが、日本国憲法の前文には、こうある。
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日本国民は、恒久の平和を念願し、(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

つまり、隣国を含む諸国民は公正であり、信義を守れば、非武装でも日本の領土主権は守られるわけだ。逆に、前文のこの部分が真実でなければ、「非武装中立」の根拠が崩れることにもなる。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、まさしく、すべての隣国が「平和を愛する」わけでもなく、「公正と信義」をもっているわけではない、ことを証明した。したがって、非武装では「われらの安全と生存を保持」できない。
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歴史的な事件を目の当たりにして、非武装中立が日本にとって正しい選択だと考えていた人たちが、自らの誤りに気づくことを期待したい。それでもなお、理想論としての非武装中立を信じたい人は、その前提を打ち砕いたロシアに対して、最大限の非難をして、経済的な制裁にも賛成すべきである。非武装中立を信じていても、善悪の判断はできないといけない。

日本国内のこの問題をめぐる議論のなかで、奇妙なのは、非武装中立に心情的に近い人たちのなかに、ウクライナがNATO加盟をあきらめなかったからロシアが侵略したのだからウクライナにも非がある、という議論を展開する人たちがいることだ。

ゼレンスキー大統領は「紛争の一方の当事者」なので日本の国会で演説を許すべきではない、といった人もいた。これらは、「非武装中立」の前提条件を理解できない人たちか、「非武装中立」の隠れみのをまとった反米親ロの人たちということになる。

今回のロシアによるウクライナ侵略は、「非武装中立」が幻想にすぎないことを、明白に示した歴史的事件だ。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

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