山田:バーチャルに肇さんの世界を垣間見れて、リアルにお店に行くみたいなステップもあるでしょうね。国や政府に対する提案はありますか?
米田:文化をいかに国家戦略としてやっていくかはすごく大切なことです。シンガポールの有名シェフにどう海外発信したらいいか聞いたところ、「シンガポールは当たり前に海外にアピールするけれど、日本は人口も多いから国内向けの発信が多い。そんなことではよくないよ」と言われました。
ヨーロッパも同じ。海外からの観光客「争奪戦」において、いかに勝つかを国家戦略的にやっています。料理コンクールでも、国の予算を入れて優勝を取りに来る。日本のシェフが自分たちでお金を集め、自ら荷物持って行っているところに、向こうはタンクローリーで来るわけですよ。その辺りからもう全然違う。
山田:日本がいかに文化覇権を取るか。そこには国としてすべきことがありますね。
米田:レストランの原価率は、日本では4割から5割ですが、ヨーロッパは2割。なぜ安くできるかというと、農家がレストランへ安く卸しているから。レストランにいい食材を使ってもらうことで、世界中から来るインバウンドに商品を知ってもらえ、結果的に輸出していくことで大きな利益を得るという構図なのです。こういう世界戦略を、日本は描くことができていません。
また日本は国内市場が主なので、どうしてもデフレ傾向になってしまいます。そのため、飲食業も第一次産業もどんどん縮小しています。さらに少子化の未来を考えると、ヨーロッパが少子化になり始めた時期から高級路線に戦略を変えたように、海外市場に目を向けて、良い製品を適正価格で売っていく必要性があると思います。
山田:それは生きている我々の役目ですね。
米田:日本は、戦後の高度成長期にものづくりで成功して、ある程度豊かになった。一方で、税法も政策も、あまりにも製造産業中心になってしまったために、労働集約産業や専門職がおろそかにされ、合理性の高い企業が金を持つような社会になってしまった。
でも、文化を作っているのは、実は手間暇のかかる労働生産性の低い層。そして世界中の人は、そういう人たちの仕事を見に行きたいんですよね。コンビニで売っている合理的な製品を買いに来るわけじゃない。どちらかというと、合理的でないところにめちゃくちゃ面白さがあるんです。
山田:そうですね。このままでは効率重視のつまらない社会になってしまいます。
米田:経済ばかりが成長すれば笑って暮らせるかとえばそうじゃない。この国はもう一度、どこに進んで行くのかを考える時に来ています。文化と産業が共存できるような社会にしていく必要がある。
それには産業別税制とかを入れる必要があります。ロボットやAIを使うような企業は、そのロボットにも税金をかけるとか。僕たちみたいに人間と一緒に働く仕事は、人を抱え込んで給与や社会保険を払い、教育もしなくちゃならない。それでも同じ税制だと、人を抱える方が苦しくなる。だから、税制を産業別に変えたり、産業別のベーシックインカムを入れたりすることを考えないと、本当に良いものがなくなってしまう。今そのギリギリのところだと思います。
山田:私が委員を務めている文化庁の「文化経済部会」でも、文化と経済のエコシステムについて議論しています。
米田:政府は今の産業の現状、文化の現状を知った上で、経済合理性よりも、みんなが幸せになっていくような社会になるように、海外からの誘致も考えていかなければならないですね。ちょうど今その分岐点に来ているような気がしています。
山田:そこにハイエンドビジネスの推進は貢献できますか?
米田:できると思います。うまく富裕層のお金を循環させて、文化にお金が回るような循環システムを作るというのが一つの方法だと思いますね。
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