山田:肇さんご自身は、食以外に心がけたり、よくウォッチしているものはありますか?
米田:ずっと仕事中心なので、ファッションも生活スタイルも、「一流シェフはこうするんじゃないか」と、全部食に照準を合わせています。運動は、その辺のパーソナルトレーナーより詳しいんじゃないかな。
料理人ってスポーツ選手と同じで、ピークが35歳ぐらい。経験値や情報、工夫は増えるけど、体力的なものは確実に落ちる。それでもクオリティを落とさずやり続けるためには、トレーニングは必須。だって若いスタッフは20代ですから。彼らと同じような体力と集中力を保てるようにするのは、同じ厨房に立つ上で当然のことだと思っています。
ほかには、アートも映画も読書も好きです。魚釣りにも行きますし、車の運転も好き。興味があるものを多く持つことは、QOLを上げてくれます。70歳になって引退する時にやれることを、今のうちに増やしておきたいなって思います。
山田:肇さんは、宇宙食のプロデュースなどもされてるんですよね。
米田:食って、生物の進化とすごく関係が深いんです。地球ができて、大雨が降って海ができて、まだ生物がいない状態の時に植物プランクトンが生まれた。それがある瞬間に動物プランクトンになって筋肉がつき、陸に上がって最終的に類人猿になって両足で立ち、物を採って一緒に食べるようになったのが食の起源。
となると、僕たち料理人は進化の最先端にいて、何か新しいものを作り出せば、人に大きな影響を与えるような存在。さらに宇宙に行って新しい料理を作るというのは、魚類が両生類になって地上に上がったのと同じような進化になるのではと思った時に、宇宙の料理をしたいな、と思ったんです。
山田:ロマンがありますね。
米田:今は、宇宙ステーションに農場をつくる話がされてるところで、僕が活躍するのは宇宙へ行って料理を作る時。地球では重力があるので、料理はお皿の上におさまるし、口の中でも舌で受け止めますが、宇宙は無重力。物が浮いた状態で、どう盛り付けるのか。どのように調理をするのか。口の中ではどう動くのか。新しい形の料理、たとえば、空中に浮かせる表現方法もできるんじゃないかなと思うと、面白いなと。
山田:浮いてるものを食べる、鳥のように空を飛びながら食事する感じは、すごく肇さんの世界観に合いますよね。他にやってみたいことは?
米田:インターネットでは、まだ味と匂いを扱えません。それを実現できないかと思うんです。醤油を買う時でも、USBを咥えてボタンを押すと味見ができちゃうとか。
山田:そうすると誰もがどこに居ても、いろいろな味や空気を楽しめる時代になりますね。
米田:たとえば最後の晩餐。「最後はお寿司がいい」なんて言いますが、死は予期せず訪れるか、衰弱して食べられない可能性が高い。でも、今って電極を当てると、目をつぶってても映像を見れたり、振動を与えると噛んでる感覚を得られたり……、色々な方法がどんどん開発されています。それらと食の体験を連動できたら面白いなと思いますね。