山田:それほど気に入られたのですね。国内のお客さんはいかかですか?
米田:日本はやっぱり有名企業の経営者や有名人の方が多いですね。投資家の方も結構いらっしゃいます。経営者や病院の先生などは「う〜ん」と唸って帰られます。「自分ももっと細かい点までちゃんとやらなきゃと思った」「がんばらなくては」と。うちは料理がすごく細いので、ここまで突き詰めてやってるのか、と思うんでしょうね。
山田:勇気を与えていらっしゃるんですね。ある種自分を変容させる、それは食以上の体験ですよね。肇さんは、ご自身の唯一無二性をどう表現されますか?
米田:「見る」「聞く」から「匂う」「味わう」まで、全部の感覚を利用したエンターテイメント。映画は見る・聴くという世界。アートには触れるものもあったりしますが、食べるところまではなかなかないので、そこまで行くようなアート体験を提供したい。料理というより、メッセージ性のある「作品」だと考えています。
山田:フランスでシェフになられる前には、絵も描いていらしたとお聞きしました。その時のアート活動も今のお料理に活きているのではないでしょうか。
米田:そう思います。絵に関しては、子供の頃から学校の先生が勝手にコンクールに送って、金賞を取ったり大阪府知事賞をもらったりしていたので、中学生の頃はそういう学校に行った方がいいんじゃないかと言われていました。仕事にしようとは思いませんでしたが、アートは好きで、フランスでも本当にいろいろな美術館に行きました。描くうえでは、自分しか感じられないフィルターを通すことが大切だなと思っていましたね。
山田:自分でしかできないという唯一無二性はハイエンドの基本ですね。お料理についても研究されるのですか?
米田:世界中のシェフの本もよく買います。が、それは参考にするんじゃなくて、同じ料理をしないため。ネットやインスタで情報を得てコピーする人もいると思いますが、私の場合は同じ料理をつくらないために見るんです。
山田:肇さんのお料理を初めていただいた時に、これは一つの旅だなと思いました。食の範疇に収まらないそれ以上の体験。森の中に行ったり、海底に沈んだり、一週間ぐらいの旅をしてきたような感覚でした。そして、今言葉にしていただくと、確かにあれはアート体験だったのだと思いました。肇さんが考える高価値とは何でしょう?
米田:今の時代、お金さえあればインターネットで何でも買えますが、時間は買えません。それに、僕らの料理は最初の2、3分が勝負、そこしか賞味期限がない。もっといえば一瞬、15秒ぐらいの間に食べてもらわないと崩れてしまう。「今すぐ食べてください」というもののみを提供するのが、最高の価値なんじゃないかと思います。