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2022.04.06

西武復活の立役者に再びの壁。覚悟のストレートダッシュ

西武ホールディングス代表取締役社長 後藤高志

危機にひるまなかったのは、学生時代にラグビー部で培った精神が影響している。ラガーマンとしては小柄だが、「東大ラグビー部のスローガンは『ストレートダッシュとロータックル』。体格の大きい相手にも逃げずに正面から、低い姿勢でぶつかることをたたきこまれました」

卒業後、第一勧銀(現みずほ銀行)に入行する。1997年の総会屋利益供与事件では、若手「4人組」のひとりとして改革を主導。横やりが入らないように、当時の頭取に直轄のコンプライアンス組織をつくるよう直談判した。後藤らをモデルにした高杉良の経済小説には、その“ストレートダッシュ”ぶりも描かれている。

2005年、有価証券報告書虚偽記載問題で揺れる西武鉄道の再建を託され、グループ再編に腕をふるう。翌年にホールディング化して社長に就任するが、経営トップに立っても、創業家株主との訴訟、大株主の米投資会社サーベラスとの再上場をめぐる緊張関係など、巨大な相手と対峙する日々が続いた。

「サーベラスには感謝しています。方法論で違いがあって緊張が高まった時期もありましたが、上場という目的は同じ。最後はお互いに理解して、シェイクハンドしました」

このノーサイド精神も、元ラガーマンらしい。

常に大きな相手に挑んできた後藤も、いまは社員からタックルを受ける立場になった。「地位や年齢は関係ない。まだ進行形ですが、若い人も活発に意見を言ってくれるようになってきた」と目を細める。

17年発足の新規事業開発組織「西武ラボ」は、当時40歳の社員を部長に登用しリーダーとして抜擢した。西武ラボからは、喫煙者の減少で使われなくなったたばこ自販機で地域のお茶を販売する「Chabacco」をはじめ、ユニークな企画が多数提案されている。

ただ、タックルを受けても簡単に倒れるつもりはない。

「胸はどんどん貸します。ただ、すぐに倒れたら、社員が鍛えられない。私がはじき飛ばしてもまた立ち上がってぶつかってくるチャレンジスピリットが欲しいね」

とニヤリ。いまや巨人となった後藤を倒すのは、どうやら一筋縄ではいかなそうだ。


ごとう・たかし◎1972年東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。取締役副頭取などを経た後、2005年に西武鉄道社長に就任し西武グループ再建を託された。数々の困難を打破し、2014年に西武ホールディングスを再上場させた。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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