ただ、認知度が低いのは、製品分野だけが理由ではない。かつては機関投資家の間で「情報開示をしない会社」と評判になるほど情報発信に消極的だった。謎のベールに包まれた優良企業—。そうしたイメージを払拭すべく改革を進めているのが、21年4月に創業家から社長に就任した高田芳樹だ。
「昔は、お客様から『もうかっているなら安くしろ』と迫られるのを避ける意図があったとか。でも、開示しないと社員だってわからない。いい会社なのだから、社員が家に帰って誇らしく語れるようにしたいですよね」
透明性を高める理由として、投資家へのアカウンタビリティではなく社員に知ってもらうことを真っ先にあげたのは、いかにも高田らしい。
原体験は、30年間赴任していたアメリカにある。SMCアメリカ社長に就任する直前、営業社員が4割辞めた。原因は、日本から来ていた前任者のマネジメント。明確な基準を示さないままトップの気分で決まる処遇に多くの退職者が出た。
「日本では通用したかもしれませんが、アメリカでそれをやると社員はすぐ転職していく。マネジメントで大切なのは、透明性と公明正大さ。離れていく仲間を見て、そのことを痛感しました」
日本帰国後にコーポレートガバナンス強化に取り組んでいるのも、密室で決まりがちな経営から脱却するためだ。20年に指名・報酬委員会を設置。21年には社外取締役を増やして4人に。うち1人は女性だ。
アメリカ流を体現する高田が人生で初めて世界を意識したのは、マサチューセッツに留学した学生時代だった。日本経済は黄金期に入りつつあったが、それでも実際に暮らすと、アメリカとの国力の差を感じた。