ビジネス

2022.01.31

謎に包まれた優良企業SMC。成長の鍵はグローバル化

高田芳樹 SMC代表取締役社長


世界を舞台に仕事をしたいという思いから商社に就職。燃料部でLNGを担当したが、「契約が決まると下っ端はすることがない。LNG船から油が漏れて夜中に海に中性洗剤をまきにいくなど、雑用ばかりでした。たまに海外に出張しても自社の駐在員と話すだけで、何か違うなと」

物足りなさを感じていたところに、創業者の父芳行から声がかかり、87年、SMCに転職した。すぐイギリスに留学して、そのままスイス、イタリアに駐在。以来、ずっと海外だ。

実は当初は転職を後悔していた。機械部品は地味で、愛着をもてなかったからだ。追い討ちをかけるように、営業先のドイツ企業から、「日本人の会社からは買わない。帰れ」と突き放される経験もした。その会社は日本の競合メーカーに苦汁をなめさせられていたからだ。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。同じ週に営業に行ったイタリアのメーカーで、逆に歓待された。

「『おまえの会社の製品が好きなんだ』とハグされましてね。こういうお客様のために頑張ろうと思えたし、自社の製品に誇りをもてるようになりました」

日本には戻らず、そのままアメリカへ。当時の主な顧客は日系企業の工場で、アメリカでのシェアは3%にすぎなかった。しかし、現地企業に積極的にアプローチして、30年でシェアを28%まで伸ばした。体格のいいアメリカ人になめられないよう体を大きくするために始めたクロストレーニングというエクササイズは、いまも続けている。マネジメントはアメリカ仕込みだが、商売の要諦は父からたたき込まれた。

「毎年クリスマスは家族で合流してハワイに行っていました。でも、朝食の後、私だけ『ちょっとこい』と父の部屋に呼ばれて、一日中ケチョンケチョンにやられる。まったくバケーションではなかった(笑)」

社長になったいま、従来のよいところは継承しつつ、真の意味でのグローバル化を進める。

「わが社は社員の4分の3が外国人。ところが本社の日本人は、海外の子会社をまだ下に見ています。子会社には優秀な人材が大勢いる。すでに国際会議は通訳なしの英語のみにした。これから優秀な人がも っと有効に機能する組織にしていきます」 ドラスティックな改革ができるのは、創業家出身の強みだろう。謎に包まれた優良企業がどう生まれ変わるのか。お手並み拝見だ。


たかだ・よしき◎上智大学法学部卒業後、英ロンドン大学政治経済大学院ディプロマ修了。三菱商事を経てSMCへ入社。長らく海外に赴任し2004年からSMCアメリ カ取締役社長、19年に帰国し21年現職へ。週2、3回は趣味のクロストレーニングで汗を流すスポーツマン。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.087 2021年11月号(2021/9/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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