U-NEXT代表取締役社長の堤天心は、好調の要因を尋ねると落ち着いた様子でこう分析した。
コロナ禍で家で過ごす時間が増え、サブスク型動画配信市場は前年比35%増の3238億円(2020年)に成長した。動画配信サービス「U-NEXT」は業界平均を上回る成長を見せて、シェアを11.1%に拡大。「Netflix」「Amazonプライム・ビデオ」に次ぐ3位だ。
堤が分析したように、U-NEXTの強みは豊富な品揃えにある。競合は選択と集中で、人気が高いドラマやアニメ、大作に絞って品ぞろえをする。一方、U-NEXTはロングテールで、視聴数が多くないニッチな作品までカバー。まさに逆張りだが、これがコロナ禍で功を奏した。
「ユーザーは、『あの話題作を見たい』と考えて動画配信サービスの利用を始めます。品揃えが少ない場合、目当ての作品を見終わるともう見るものがない。U-NEXTは、自宅時間が増えて物足りなくなったユーザーの受け皿になり、2つ目、3つ目のサービスとして選ばれた」
17年に社長に就任して4年。経営者ぶりが板についた堤だが、もともと経営者を志していたわけではない。中学時代は「学者、アスリート、芸術家。とにかく腕一本で自立して生きていける人になりたかった」
自立する生き方に憧れた背景に、家庭環境がある。中学生のころの堤は、家族が機能不全と言える不遇の状況にあった。堤は言葉を選びながら振り返る。
「家族が誰かに依存しなければならない状況でしたから、そのバランスが崩れることが怖かった。私も巻き込まれ、人生のコンロールが利かなくなるというか……。経済的な意味だけでなく、本当の意味で自立した生き方をしなくちゃいけないと思いました」
大学卒業後はリクルートに入社。2年目で経営企画に異動になり、成長戦略会議で小間使いをした。
「刺激的でしたよ。ボストンコンサルティングが加わっていましたが、コンサルってこんな考え方をするんだと、非常に勉強になりました」
ただ、慣れるにつれて刺激は薄れていく。「リクルートは頭のいい人が多い。だからこそ、議論して最終的にどんな結論になるのか予測がつく」と、次第に物足りなさを感じるようになった。
そんなとき人材エージェントから紹介されたのがUSENだった。
「オーナー企業だから、意思決定はよく言うとシンプルで、悪く言うと雑かも(笑)。でも自分には、こっちのほうが動きやすいと感じました」
転職して07年に立ち上げたのがU-NEXTの前身となるGyaONEXTだ。当時のコンテンツ業界は、DVD至上主義。デジタルの動画配信サービスは理解されず、苦戦した。
「中長期で見ればアナログからデジタルへの流れは不可避です。あとはタイミングの問題。メンタル面と資金面で息切れしないように、サバイブすることだけ考えていました」