「影響はあります。宴会やミーティングのキャンセルが相次ぎ、宿泊の稼働も下がりつつある。ただ、2年前とは違います。『疾風に勁草を知る』。危機を経験して、みんな疾風でも倒れない草になってますから」
オミクロン株の影響を問うと、代表取締役社長の後藤高志は故事成語を引き合いに出して、現場が万全の体制でコロナを迎え撃っていることを強調した。
2年前は、疾風どころか暴風が吹いた。後藤は毎年末、陣中見舞いで首都圏のプリンスホテルを訪れる。19年の年末は例年と同じくにぎわっていたが、翌春に様子を見に行くと、様相が一変していた。
「瞬間蒸発です。ロビーにお客様はいなくて、社員もぼうぜん自失としている。その光景を目の当たりにして、私も胸が痛みました」
数字は残酷だった。コロナ前は、平均80〜90%あったホテルの稼働率は一桁台に。鉄道事業も平均乗車率が40〜50%近く落ち込んだ。不動産事業でもテナントの撤退が相次いだ。
しかし、この危機も前向きにとらえた。
「2014年の再上場以降ずっと順調で、弱みがわかりにくかった。パンデミックでそれが浮き彫りになり、やるべきことが明確になりました」
弱みとは、ズバリ、固定費だ。ホテルも鉄道も、アセットが重くて損益分岐点が高い。
後藤は経営会議で「これを機に、一時的ではなく恒久的に損益分岐点を下げる」と方針を発表。ホテルはオペレーターとアセットオーナーの機能を分離。一部のホテルを流動化して、運営を受託し、継続保有するアセットについても、今年4月に予定している組織再編によって機能を分離する「アセットライト」戦略を打ち出した。一定の緊張感をもたせて効率的に運用できる体制を整える。
社員にも「勁草」になることを求めた。職務の多能工化を進めて、例えば宴会部門の担当者もフロント業務ができるようにした。社員も自信がついたのか、毎年実施している意識調査では、挑戦に関する各項目の数値が前年比でいずれも向上した。後藤が「組織も個人も、この2年で強くなった」と胸を張るのもうなずける。