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ダイキン工業取締役会長 井上礼之

「海外に行きたいですよ。でも、2週間も隔離されるのは嫌やから(笑)」

ダイキン工業取締役会長の井上礼之には十数年前から続けてきた習慣がある。世界を欧州、米国、中国、東南アジア、日本の5極に分けて関係役員とともに訪問。2日間にわたり現地から報告を聞き、さらに4〜5時間ディスカッションする。夜はパートナー同伴のコンサートと会食でワイガヤ。フォーマルとインフォーマルの両方で現地の情報を引き出す。

単なる視察ではない。現地のナマの情報をもとに、その場で決定を下すことも多い。

「時間をかけて立派な戦略を練るより、ある戦略をやってみて、現場の波打ち際で起きた変化に柔軟に対応したほうがいい。わが社はそのやり方で、コンペティターより半歩先を歩いてきました」

この必勝法が去年はコロナ禍で封じられた。一部の役員は現地に飛んだが、井上はオンラインでしかコミュニケーションが取れなかった。

「報告を聞くのは一緒。でも、オンラインだとディスカッションはあかん。表情がもうひとつわからんし、行間が読みづらい。今年はなんとか飛行機に乗っていけるといいですが」

井上が戦略の柔軟な見直しをよしとするのは、それによってダイキンをグローバル企業へと育て上げた自負があるからだろう。

2003年夏、欧州ではルームエアコンが好調だった。社内には「需要は一過性」との見方もあったが、井上は現地に飛びルームエアコンの本格普及を確信。業務用エアコン増産のために建設予定だった工場を、ルームエアコン用に設計変更した。

極め付きは08年の中国・格力電器との提携だ。当時、中国市場はノンインバーターが中心で、ダイキンが強みをもつインバーターの普及率は約7%だけだった。インバーターを空調の省エネ技術として定着させるために自前主義から転換し、中国一の販売網をもつ格力と組みたかったが、技術陣から猛反対を受けた。

「独自技術を渡すのは敵に塩を送るのと同じやと言うんです。しかし、協力なしに13億人の市場は取れない。格力と組んだ方が早く展開できると説得して合弁会社を設立。それから5年でインバーター機の普及率は一気に60%に高まりました」

10年には米キヤリアを抜いて空調世界一に。これも商機を見逃さずに戦略を変えてきた結果だ。

変化を好む一方、けっして変えなかったものもある。“性善説のマネジメント”だ。

文=村上 敬 写真=佐々木 康

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