「ポジティブ・サム」とは「互いが利益を得る」こと。確かに2010年代はゼロサム・ゲームの時代だったかもしれない。巨大プラットフォーム企業に富が集中して、デジタルに富が移行するなかで取り残される企業や業種が衰退していった。一方で、今、コロナ禍で誰かをサポートする新ビジネスが世界各地で急成長している。
日本らしいポジティブ・サムとの出会い
6月25日に発売のForbes JAPAN 8月号では「日米中『新しい稼ぎ方』」と題した特集を組んだ。日本、アメリカ、中国は、人口構成や社会情勢が異なるものの、好循環を生んで市場をつくるポジティブ・サムのビジネスが多く誕生している。
例えば、コロナ禍で外出が難しくなったアメリカでは買い物代行の「スーパーマーケット版ウーバー」ことインスタカートが大成功を収めている。企業価値は180億ドルとも言われ、類似のサービスが世界中で生まれている。
同じく欧米で似たビジネスが登場している例に、アマゾンに出品しているサードパーティセラー(第三者の小売業者)の商品開発やマーケティングを支援するビジネスがある。2018年に創業したアメリカのセラシオは、2年間で100近い事業者を買収。買収額が高額であるため、アマゾンのプラットフォームから次々とミリオネアの小売業者が誕生。買収された事業は売上を飛躍的に伸ばしている。
中国で2015年に創業したピンドゥオドゥオは、社会変化から取り残された「内陸部の農村」の人たちを対象にスタートしたECプラットフォームだ。トイレットペーパーから家電製品まで、買いたい人をSNSで集めて共同購入を募ることで購入単価を安くする。いまやアリババに次ぐ中国第2位のプラットフォームに成長した。
ここで一つ、特集を組むきっかけとなった日本らしいポジティブ・サムとの出会いを紹介したい。
「なんだ、矢本さんじゃないですか」と、懐かしさのあまり、筆者が思わず口にしたのは2年前のことだった。このとき、知人から「注目のスタートアップ企業」として引き合わされたのは、2017年に創業した10X(テンエックス)の矢本真丈である。
矢本と筆者は東日本大震災の復興支援の取材で出会い、当時、被災地支援で駆け回っていた矢本に取材先を紹介してもらっていた。しかし、復興への思いを語り合う関係だったかというとそうではない。筆者にとって矢本はどこか浮かぬ顔をしている印象があったのだ。