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TDCの社長 赤羽優子

どんなことが起きても、どんな難しい案件でも、絶対にあきらめない。極限まで磨き上げた職人技は、ついに大気圏を越え「星」になった。


「困ったねえ。これ、どうやって磨こうか」

東北新幹線仙台駅から車で約20分。仙台市のベッドタウンとして知られる宮城郡利府町の町工場で、技術者たちが難しそうな顔をして話し込んでいる。一見すると、ここは普通の町工場にしか思えない。しかし、もち込まれるのは、世界最高レベルの精度が求められる難しい案件ばかりだ。

世界中から案件が舞い込むこの会社は、超精密研磨でオンリーワンの技術を誇る「TDC」。同社の強みは、さまざまな素材を表面粗さ(Ra)1ナノメートル以下(ナノは10億分の1)の精度で磨き上げる技術だ。平面だけでなく、曲面、球面など、複雑な形状の研磨も手がけられる。精密研磨の市場では、100ナノレベルで磨き上げる会社は1000社以上あるといわれているが、さまざまな形状をナノオーダーの「超」がつく精度で仕上げられる会社はTDCをおいてほかにない。

「私たちは世界中でまだ誰もやっていないことに挑戦し、誰よりも先に実現する会社です」

落ち着いた口ぶりで話すのは、2015年に家業を引き継いだ社長の赤羽優子だ。TDCの研磨技術は医療機器、分析機器、電子機器など幅広い分野で生かされており、取引先の数は国内外で4000社にのぼる。

その技術力を象徴する事例が、20年12月に帰還した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」だ。TDCは探査機に搭載された微細サンプル回収コンテナの開発に参加した。容器の内部をナノメートル単位で平滑に磨き上げることで、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取した物質を摩擦で破損しないようにしたのだ。

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宮城郡利府町の本社・工場。東日本大震災が起きた際は、津波の被害は免れたものの、建屋や機械が大きなダメージを負った。その後、社員一丸となって会社を立て直し、2012年8月には新工場が竣工。現在は本社も新しくなった。

3Kを誇りある職場に


地方の町工場が宇宙探索の成果を左右する役割を担うまでに成長したのは、2000年ごろに赤羽が始めたウェブマーケティングがきっかけだった。

「町工場の仕事は、それまで3Kと呼ばれる不人気職でした。でも、どんなものでもツルツルに磨き上げる技術は、どこに出しても恥ずかしくない。だったら広告宣伝をしよう。世界の人たちが宮城に買いにくるものをつくって、誇りある仕事に変えたいとずっと考えてきました」

大学卒業後、広告代理店を経て家業に入った赤羽は、強みである研磨技術を展示会やウェブサイトで積極的にPRしていった。日本語と英語でサイトを立ち上げると、米国のアイオワ大学、ハワイ大学などから相談が寄せられるようになった。

顧客の要望を満たす製品を納めると、さらに高い精度を求める注文がきた。評判を聞いた別の顧客からも新たな問い合わせがくるようになった。JAXAからの注文も、ウェブサイトを見た担当者から「できますか?」と問い合わせがあったのが発端だ。

実は赤羽が入社する前、TDCは30社ほどの得意先から依頼を受けて研磨や切削、研削など加工の仕事をこなす「完全な下請け体質の会社」だった。主な取引先は半導体業界。業績は景気の動向に大きく左右されていた。

このままでは行き詰まる──。そう考えた先代社長は1998年に方針を転換。顧客から定評のあった鏡面加工の技術力を生かし、ナノレベルでの精密加工に力を入れ始めた。

文=畠山理仁 写真=佐々木 康

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