ビジネス

2022.03.28

日本の大企業に囲われたトップ人材を解放せよ

世界経済のエンジンとなった米カリフォルニア州のテクノロジー企業集積地、通称「シリコンバレー」。その成功により、産学官が連携したハブが世界的に注目を浴び、各国・各都市がそのモデルを模倣しようとしている。グローバルな世界と連携する東京を中心とした「スタートアップ・エコシステム(生態系)」は育成できるのだろうか。早稲田大学ビジネススクール(WBS)の牧兼充 准教授が、エコシステムを形成する関係者へのインタビューを通じてその課題と可能性を探る。

日本のベンチャー投資業界で黎明期から活躍してきた「Sozo Ventures」が振り返る「日本のベンチャー投資業界」の過去、現在、未来。同社は、Twitter(ツイッター)やSquare(スクエア、現ブロック)、Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)といった日米のスタートアップに出資する一方で、スタートアップと大企業間の協業や提携を実現してきた。今回は、同社共同創業者兼マネージング・ダイレクターのPhil Wickham(フィル・ウィックハム)と、同社マネージング・ダイレクターの松田弘貴が「日本企業がイノベーションで成功するカギ」について語った。


牧 兼充(以下、牧):前回、スタートアップ・ハブとして東京が抱える世界的にも大きなポテンシャルをもっている点について話しました。人材や資本、人脈といったリソース、暮らしやすさやダイバーシティ(多様性)といった環境に恵まれているのが主な理由ですが、課題はどういった点にあるのでしょうか。

フィル・ウィックハム(以下、ウィックハム):東京の課題の一つとして、交流会やフォーラムにいつも同じ顔ぶれの8~10人がスピーカーとして登壇することが多い点が挙げられます。彼らは大成功を収めていて、影響力もあるのですが、あまり変わり映えしません。そして、有望なスタートアップに出資しているのもいつも同じ人たちです。

松田弘貴(以下、松田):日本が抱えている課題の解決を先送りしているように思えます。少子高齢化、先進国としての低成長など、日本が抱えるど真ん中の課題に切り込むスタートアップがより増えていってほしいです。それと、プレゼンテーション・デイや、デモ・デイ(試作品の発表会)も日本では大人気ですが、米国ではビジネスは以前と比べてはるかに複雑化しています。結果、ピッチを通じてビジネスの価値を伝え、クイックに投資を獲得するということがどんどん減っています。例えば、フィルと私とで、パランティア・テクノロジーズ(以下、パランティア)やコインベースの事業内容を5分でプレゼンしようとしたことがありますが、無理でした。そもそも、企業のバリュー・プロポジションを5分で説明することに無理があるのです。

スタートアップ・エコシステムが成熟することで、アクセラレータやデモ・デイなどに惹かれがちな起業家の関心を変えられるのではないか、と期待しています。単純化されている現在の起業の仕組みを、より現実のビジネスのあり方に合った形に変えていく必要があるのではないでしょうか。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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