ウィックハム:それに人脈があり、一生懸命に仕事をしている有能な人材であれば、世代の格差がキャリアに響くようなことはありません。とはいえ、言われているほど、シリコンバレーは失敗が大好きという訳ではありません。この理解は間違っています。シリコンバレーはどこよりも成功が好きです。ある程度の失敗や、失敗の内容によっては寛容だというだけです。
こうした人材は、リンクトインなどで探すことができますが、日本には、こうした人材を育成し、発掘するシステムが充分に普及していないように思えます。日本の最も優れた人材は、日本の大企業に囲い込まれています。問題は、「スタートアップが、日本の大企業に勤める43歳の本部長を、給与50%カットで引き抜けるか?」ということです。仮にその本部長は転職したものの、スタートアップがうまくいかなかった場合、日本社会とメディアは容赦なく批判するでしょう。成功している日本の企業人にとって、大企業からスタートアップへ転職することは、現実的な選択肢ではないのです。
松田:日本ではまだ、海外の大学でMBA(経営学修士号)を取得した人の多くが、プライベート・エクイティ業界やコンサルティング業界へ進みたいと考えています。少しずつ増えてはいるようですが、ベンチャー・キャピタル業界で働きたいと考える人は少数派です。MBA取得後も、日本の大企業や、外資系大手の知名度と待遇に惹かれて、そちらへ転職する人はたくさんいます。
牧:日本におけるキャリアパスと労働の流動性は、大きな課題の一つです。日本の大企業はイノベーションの面ではそうした課題を抱えつつも、東京のスタートアップ・エコシステムへの人材の供給源になっているのも事実です。そして、SOMPOホールディングス(以下、SOMPO)とパランティアの提携に見るように、一部の大企業にも劇的な変化が起きつつあります。特に、東京における大企業のイノベーションの例を挙げる場合、必ずと言っていいほど、SOMPOが登場します。Sozo Venturesがこの提携を仲介した経緯と、SOMPOという会社のユニークな点について教えてください。
ウィックハム:月並みな答えですが、理由は「リーダーシップ」にあると思います。SOMPOは、当時のCEO(最高経営責任者)の櫻田謙悟さんと、同CDO(最高デジタル責任者)の楢崎浩一さんの存在が大きい。彼らのものの見方が他社と一線を画すもので、それが同社の企業文化にも影響を与えています。SOMPOは、イノベーションとは何かをよく理解しており、イノベーションに対して積極的であったからこそ、起業家たちは一緒に仕事をしたい、と考えているのです。
たいていの起業家は、答えが「イエス、ノー」のどちらであっても大して気にしないものです。ただ、「ノー」の場合は早く言ってほしい、それだけ早く前に進めますから。SOMPOはこうした起業家のマインドセットを理解しているからこそ、他社と比べてより良い提携の機会を得ているのです。
例えば、SOMPOとパランティアの合弁事業は、櫻田さんが渡米してアレックス・カープCEOと会ったからこそ実現しました。そのおかげでSOMPOは、パランティアのプレIPO(新規株式公開)の資金調達ラウンドに参加できたのかもしれません。こういった積極的な姿勢が、会社全体に影響していくものです。そして、良い結果がさらに良い好機を呼び込む、好循環が生まれます。