牧:デモ・デイは、“美人コンテスト”のようなもので、スタートアップや起業家の本質を理解することはできませんよね。
ウィックハム:フィンテックの「Wise(ワイズ)」や「Revolut(レボリュート)」への初期投資で知られる欧州のアクセラレータ「Seedcamp(シードキャンプ)」も今では、デモ・デイを行なわないようですからね。こういったものは陳腐化し、本来の目的を見失ってしまうものです。スタートアップの本質というものは古今東西、同じだとも思います。つまり、「世の中に変化を起こしたい」と考える数人の人が、製品を作ったり、エコシステムを作ろうとしたりする、ということなのです。その力学は、時代を超えて普遍的なものです。
エストニア発のフィンテック「Wise(ワイズ)」。P2P送金サービスで着実に成長している。 Courtesy of Wise
牧:例えば、アメリカでは「ジェネレーションX、Y、Z」や「ミレニアル」「アルファ」といったように、それぞれの世代にニックネームをつけます。そして、各世代の生活様式や性格に「リスクに寛容」「慎重」というラベルを貼りがちです。日本の場合は歴史的に見て、高齢者が社会で大きな力をもつ傾向にあります。シリコンバレーでは、こういった世代間の差はどういうふうに受け取られているのでしょうか。そして、日本についてはどうお考えですか?
ウィックハム:日本に限らず、世界的に世代間の差異はあるだろうと思います。ただシリコンバレーに関していえば、モビリティ(人的流動性)が非常に高く、移民が多い点が特徴的です。世代的な構造というよりも、“プロスポーツ”のような構造とでも言うのでしょうか。シリコンバレーには誰も知っているカリスマ的なCEOが数多くいます。その一方で、ほとんど無名ながら抜群に仕事ができる経営幹部が業界から業界、会社から会社を4年周期で渡り歩き、結果を出し続けている人が無数にいるのです。
こうした人材は、CEO職へのステップアップを目指すこともできますし、同じ役職のまま、他社へ水平に移ることもできます。でも部下は皆、昇進したいわけです。だから、部下を育て、その部下がさらにその部下を育てる、という成長のサイクルが生まれます。ブラジルのプロサッカーリーグのようなものです。ブラジル代表を頂点とすると、予備軍には何千人もの有能な選手がいますよね。
こうした巨大なピラミッドが、シリコンバレーにもあるのです。シリコンバレーでは、学歴や出身地に関係なく、セールスやマーケティングなど業種を問わず、意欲と能力さえあれば、23~24歳でスタートアップに就職できる可能性があります。常に、エコシステムに人材を供給できる「才能のプール」があるのです。