ビジネス

2022.03.22 17:00

ITベンチャーと大企業で学んだ「テックのシンボル」という生き方


技術の進化も早いし、学ばなくてはいけないことも多いから、スペシャリストでないと対応できない状況が増えました。それなのにジェネラリストだけで会社を回そうとするのは根本的な間違いです。完璧に欠点がない人ではなく、不器用で不格好でも突き抜けた人を大事にしたいですね。組織のレーダーチャートは、紙を重ねて透かして見たときに現れる総面積ですから。

CxOへの最短ルートは?


植野:経営の視点を意識したのは、どの時代からですか。

小野:ベンチャー時代は50人ほどの会社だったので、その後のセゾン情報システムズからでしょう。それまでの社長業は経営というよりも、開発のマネジメントでした。CxOは必要なかった。

植野:社長とマネジャーがいればいい。

小野:1000人規模のセゾン情報に入り、CTOとしてCの部分を初めて求められました。技術のフィールドにいた僕から見て、ITの会社であるセゾン情報をどう変えていくのかという視点です。そこで、バイモーダル戦略を打ち出したり、ものづくりの会社に原点回帰するための開発合宿を定期的にやったりしました。合宿中は参加者の前でコーディングをその場でやって見せましたね。

植野:CTOは背中で示さなきゃいけないんだ。

小野:ただ、クレディセゾンに来てからはコードをほとんど書いていません。どちらかというとみんなの意見を聞く役。大学でディベートをやっていたので論点を整理するのは得意だから、全員を納得させるスタンスに変えたんです。

植野:ギアを変えた。

小野:完全に切り替えました。自分が最強じゃなくて、みんなをできるだけ強くする、モチベーションを高くしていこうとしています。

植野:最後に、これからCxOを目指す人に向けてアドバイスはありますか?

小野:僕はもともとベンチャーをM&Aエグジットしたので、特殊なセゾングループへの入り方でした。心がけたのが、自分に与えられたTo Doに対して実直に応えること。それで認められ、15年にセゾン情報システムズの取締役になりました。クレディセゾンに来てからも役職が順調に上がったように見えますが、やってきたのは目の前の仕事に対し、期待値以上の成果をつくることだけです。

植野:まさにプロフェッショナリズムですね。

小野:社内でのちょっとしたプレゼンでも「小野さんの発表は面白かった」と言ってもらえるよう、小さなことも含めて一つひとつ、ポジティブなサプライズを常に提供していく。飛び道具で目立つのではなく、「言われた範囲でビックリするほどいいものをつくる」のが大事ですね。結局はそれが自分のクレジットにつながるからです。僕は出世欲があったわけではないですが、依頼されて与えられた環境に対して成果を積み上げることがCxOへの最短ルートでした。

キャリアについてはバックキャストしちゃダメだと思うんですよ。すごく普通ですけど、地道に目の前のものをちゃんとやっていく。それこそが基礎にして最終奥義だと思います。

「CxO」のビジョン、三カ条(小野和俊)

一、人の欠点を見ずに、長所を組織に生かせ。
二、その分野の象徴、会社のラストマンであれ。
三、実直に仕事をして信頼を得るのが最終奥義。


おの・かずとし◎1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、旧サン・マイクロシステムズ(現オラクル)に入社。米国本社でJavaとXMLを用いた開発を手がける。2000年にアプレッソを起業、データ連携ソフト「DataSpider」を開発。13年から資本業務提携を結んでいたセゾン情報システムズでファイル転送ツール「HULFT」事業のCTOとなる。19年にクレディセゾン入社、21年6月より現職。著書に『その仕事、全部やめてみよう』がある。

うえの・だいすけ
◎DX JAPAN代表。早稲田大学政治経済学部卒業、MBA取得、商学研究科博士後期課程単位満了退学。三菱商事入社、ローソンへ約4年間出向、PontaカードなどのDXを推進。ボストンコンサルティンググループを経て、ファミリーマートへ。ファミペイの垂直立ち上げなどDXを統括・指揮。

文=神吉弘邦 写真=大竹ひかる

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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