植野:未来の技術動向も把握して、頭の中にはロードマップを描いているんですか。
小野:それはなくてもいいんじゃないでしょうか。「3年後に注目の技術は何だと思いますか」と聞かれたら、僕の答えは「わかりません」。すぐにいろいろ出てくるし、自分たちで新しくつくれるかもしれない。テクノロジー志向のバックキャスティングではなく、会社として何をやるべきか、それぞれが考えてバックキャスティングしようと言っています。
そう言えば以前にある経済誌の記事で、平成元年と平成30年の世界時価総額ランキング50社を比較していましたよね。平成元年はジャパン・アズ・ナンバーワンの時代、半分近くが日本企業でした。
植野:いまはトヨタだけです。
小野:なぜそうなったか。インターネット以前からあった会社が、デジタルとインターネットの本質をとらえて事業を再設計できなかったからです。こういう意思決定プロセスに変えるべきとか、こんな顧客体験の設計をすべきとか、デジタルを前提としないTo be(あるべき姿)を設定したら時代錯誤なので、そこを間違えないように会社をリードするのはCTOの重要な仕事です。
植野:自動車が発明されたばかりの時代、馬車をつくり続けるか、自動車に置き換えるのか、判断を迫られたのと似ていますね。
小野:馬車じゃなくて、自動車というイノベーションを前提としてTo beを設定するのを間違えないようにしようと、クレディセゾンでは社長以下の経営陣全員が月1回集まり、バックキャストすべき理想像からTo beを設定しているところです。そうした会議体ではデジタルでどう変えていくのか語られるわけですが、As is(現状の姿)からフォアキャスト型の改善が出てくることが最初は多いんですね。
だから、社内の各チームに対してTo beを一緒に考えています。デジタルの新しい手段があるのに馬車でやっているなと思ったら、クルマを前提としたTo beを提案する。僕らは「伴走型内製開発」と言っています。
植野:オープンに言える具体例はありますか?
小野:例えば、いま動いている情報システムは日常の業務やオペレーション、それに慣れた社員のスキルセットとも密接にひもづいています。だからTo beの話をした途端、みんな一斉に尻込みする。「検討したけどダメでした」と言われて議論が先送りになります。その場合、既存のスキルとか取引先のことをいったん忘れて「いまのシステムがない前提」で考えましょうと提案するんです。
植野:制約を全部取っ払う。
小野:そういう大胆な案を提示すると「そこまで割り切っていいのなら検討できるかもしれません」と変わっていく感じです。無理に変われとは言いませんよ、でもTo beは設定しましょう、と。
植野:気づけば、全員がTo be思考に。
小野:それが理想です。そこに破壊や否定はない感じで、あくまでもフレンドリーに。As isを全否定するのはダメ。売り上げ利益の95%以上を稼ぐメイン業務の人たちが協力してくれません。デジタルチームには「これまでの功績を否定せず、その人たちをちゃんとリスペクトして、バイモーダル戦略を取れ」と言っています。
植野:デジタルチームには、どんな人材が集まっていますか。
小野:スキルをもっている人には大体クセがありますよ(笑)。他人を怒らせまくるけれど、ズバ抜けて優秀な部分がある、という具合に。ただし、突出した能力を事業の強みにつなげていくのがデジタルの時代。交換不可能な能力がある人のほうが組織には必要です。