ビジネス

2022.03.22 17:00

ITベンチャーと大企業で学んだ「テックのシンボル」という生き方


植野:その後、起業を経験されましたね。

小野:もともと起業する気はなかったんです。でも、エンジェル投資家が「10億円を君に用意したから会社を始めてくれ」と。そこまで言ってもらえたのも初めてだし、実際に7億円出してくれました。個人資産だから、会社からの出資よりずっと重く感じます。ただ、プレッシャーをかけにくることはまったくなかったです。頑張って楽しんで、という感じで。

起業した同世代が何人かいましたが、彼らはうまくいかないと受託開発でつないでいた。「それは絶対やっちゃいけない、禁断の果実だ」と僕は最初から決めていました。だから穴の開いたバケツみたく毎月お金がなくなっていくわけです。社内には「世界にちゃんと通用するものを日本発でつくろう。僕らがつくった作品が受け入れられるかどうかの勝負だ」と言っていました。2年間、1日も休まなかったですよ。

植野:当時は第1次ネット系ブームでIPOも盛んでしたが、そんな狙いもなく?

小野:一獲千金ではなく「世の中に必要な意義があるもの、面白いものをつくろう」とやっていましたね。投資してくれた人の頭のなかにIPOエグジットは当然あったと思います。僕は最終的にM&Aエグジットをして、セゾン情報システムズの仕事もするようになりました。

DXをスムーズに進める勘どころ


植野:現在はクレディセゾンのCTOでありCIOでもあります。両者はどう違いますか。

小野:CIOは情報システムに責任をもって、守っていく役割。一方、CTOはテックのシンボルな存在で、攻め手の役割でしょうか。

僕はコードを書いてきたバックグラウンドがあるので、あくまでもCTOです。デジタルを武器に経営改革にも取り組んでいる真っ最中なのでCDOを名乗ってもいいですが、CIOやCDOならともかく、コードが書けない人はCTOを名乗れない。そこだけは絶対に譲れないです。

植野:テックのシンボルとは、具体的にどんな役割ですか。

小野:そのCTOがいると、スタートアップからもエンタープライズからも、たくさん技術者が集まってくるような存在です。あとは、社内におけるラストマン。若い技術者が迷ったとき、結局はその人に相談しにくるような、まさに技術の最終責任者。加えて、経営にも深くかかわるのがCTOの位置づけです。
次ページ > To be提案とは?

文=神吉弘邦 写真=大竹ひかる

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事