ビジネス

2021.07.11

CMOが語る、CEOとの違いと果たすべき役割

DX JAPAN代表 植野大輔(左)とStrategy Partners 代表取締役、M-Force 共同創業者 西口一希西口一希(右)

CxO(シーエックスオー)は、トップであるCEOを組織の要として支えるスペシャリストたち。CCO、CFO、CIO、CMO、COO、CSO……こうした役職に必要な能力と条件、その立場から得られる知見とは? ローソンとファミリーマートのデジタル戦略を担った「コンビニの改革者」の植野大輔が、注目の人物にインタビューするシリーズ。

今回話を聞いたのは、日米仏の企業を渡り歩いた西口一希。マーケティング視点から経営者とキャリアを積み、スタートアップも経たベテランがCxOを目指す人に送るエールとは。


植野大輔(以下、植野):先日、“P&Gマフィア”の総帥といわれる伝説のマーケター、和田浩子さんとお会いしたら、当時、P&Gで採用した人が面接で何を言ったか、いまだに全部覚えていると言っていましたよ。

西口一希(以下、西口):多分、本当です(笑)。和田さんには鍛えられました。

植野:入社当時の1990年、マーケティングという言葉は一般的でした?

西口:マーケティングという語は80年代の終わりから徐々に広まったので、当時のP&Gは、まだ宣伝本部、アドバタイジングと呼んでいました。

デジタルも何もないシンプルな時代です。パンパースという優良ブランドに配属され、やることなすこと当たって。その後、ヘアケアに移ってもいい感じで仕事しましたが、新商品で大失敗。20代後半の経験が、いまでも一生抱えるトラウマです。

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植野:何がいちばんのミスだったんです?

西口:お客さんのことを全然見ていなかった。新しいアイデアがお客さんを変えることもありますが、潜在的なニーズもないところにもっていってはダメなんです。そんな経験から、顧客起点のマーケティングモデル「9segs」のリサーチ手法を編み出せたんです。

プリングルズ担当のときは、PL法(製造物責任法)問題でものすごい勢いで商品が返ってきたことがあります。疑似的に経営者の経験をしたのはキツかったですが、今思うと、若くしてPL(損益計算書)責任をもつ経験をさせてもらったのは大きかったです。

植野:その後、ロート製薬に移りましたね。外資と日本の老舗企業だと、まるで別世界では?

西口:完全にそうです。意思決定の仕組みが全然違うんですよ。P&Gでは全員が共通言語で話して、同じような視野と思考回路をもっていた。だからコミュニケーションコストが少なくて楽なんですね。

植野:コミュニケーションに型がある。ロートは?

西口:当時、社長だった山田邦雄会長が何か言うと、それは神の一声。でも、相当な確率で「当たる」んです。8年間、一緒に働かせてもらい、お客さんやマーケットを非常によく見ていると知りました。

僕の思想の半分以上は山田さんから影響を受けています。社内でも部長クラスだと相手が萎縮してしまうから、1年目や2年目の新人と話している。最もマーケット感覚をもっていて、自分に忖度しない層から情報を吸い上げているんです。
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文=神吉弘邦 写真=大竹ひかる

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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