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2022.03.04 08:00

「ゴミ処理施設の上でスキーをしよう」ビャルケ・インゲルスが考える未来の街づくり

2020年1月6日、ラスベガスのCES会場でトヨタの豊田章男社長によるスピーチ後、「ウーブン・シティ」の構想を解説するビャルケ・インゲルス。

この数年で、世界トップクラスの建築事務所に成長したBIGを率いるビャルケ・インゲルス。ウーブン・シティの基本設計にも携わった規格外の発想家に、本誌独占インタビューで迫る。

世界的な著名建築家であるデンマーク人、ビャルケ・インゲルスは、単体の建築物だけではなく、複数のスマートシティにかかわっている。ウーブン・シティをはじめ、2021年9月に発表されたばかりの「テローザ」プロジェクトも彼らが設計する。テローザはネバダ、アリゾナ、テキサスなど、米国に点在する砂漠地帯に、合計で数十万人が居住するメガシティをゼロから建設する案だ。

インゲルスは本誌の独占インタビューに対して、「テローザの発想に大きな影響をもたらしたのは、ウーブン・シティの考え方であることを強調したい」と言う。彼の話を紹介する前に、スマートシティについて俯瞰しておきたい。

パーソナル・モビリティやMaaS、都市インフラに活用できるデジタル技術などの「個別解」に目が奪われがちだが、近年、世界的に起きているスマートシティ構想自体は、「ホリスティック」という概念が近い。「包括的」という意味だ。医療にたとえるならば、対症療法といった「部分」ではなく、体のすべての機能がつながる「全体」となる。

例えば、ブラウンフィールド型(住民が住んでいる既存都市のスマート化)と呼ばれる「スマートシティ会津若松」。エネルギーの見える化プロジェクトでは、自宅のエネルギーデータを提供すると省エネの方法を教えてもらえる。その結果、都市全体で27%の消費エネルギーを節約できたという。

デジタル共助社会では、個人や各家庭は自立しながら、地域全体がデジタルでつながる。まるで、生物の細胞一つひとつは自律的に行動しているが、その行動が生命体の全体を形成する自己組織化のようだ。スマートシティは、このようにデジタルを通した自己組織化と言える。


ウーブン・シティの基本構想では、街の道路を3種に定義することに力が注がれた。「地形を計算しながら、3つの異なるストリートが重なり合うインターセクションをデザインすることは、まるでタータンチェックを織るかのようだ」と、インゲルス。

こうした従来の街を変えていくスマートシティがある一方で、グリーンフィールド型と呼ばれるゼロからの人工都市を建設する例はテローザだけではない。テンセントは、中国・深セン市に「ネットシティ」を27年に完成させる。そこでは自動車や鉄道がすべて地下に収納される。地表にあるのは歩道のみで、徒歩だけでビジネスや生活ができるようになる。

いずれも機能拡張、高度化、包括的といった概念で都市を自己組織化するものだ。

さて、世界中の名だたる企業やディベロッパー、ミュージアムなどがプロジェクトを頼もうと連日のアプローチをかけるのが、ニューヨークに拠点を置く「BIG」である。ビャルケ・インゲルス・グループの略称で、コペンハーゲン、ロンドン、バルセロナにも事務所を構える大型建築事務所だ。

BIGは現在、米国カリフォルニアのマウンテンビューに大規模なグーグル本社を設計、25年の完成に向けて建設が進んでいる。そのほかに進行中なのは、気候変動がもたらす大型ハリケーン襲来からニューヨーク・マンハッタンを丸ごと守る堤防と公園が一体化した整備計画「BIG U」、地球温暖化による海面上昇を踏まえた海上都市、人口問題解決のための火星移住コロニーなど、建築を通じた大胆で包括的な提言で知られる。 
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文=中島恭子 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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