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2022.03.04 08:00

「ゴミ処理施設の上でスキーをしよう」ビャルケ・インゲルスが考える未来の街づくり

2020年1月6日、ラスベガスのCES会場でトヨタの豊田章男社長によるスピーチ後、「ウーブン・シティ」の構想を解説するビャルケ・インゲルス。


贈り物の意味は、未来にわかる


すでに実現したプロジェクトのうち、BIGの未来的な思考をよく表したものとして、19年に建設された「コペンヒル」がある。その名の通り、平地ばかりのコペンハーゲンに新しく生まれた丘の意で、正体はゴミ処理発電所だ。この建築は、従来の廃棄物処理施設のイメージを覆した。人工芝と天然植物を植えた傾斜ルーフが施され、年間を通じてスキー、ジョギング、ハイキングが楽しめる。外壁にはボルダリング設備まで備え、市民のためのレクリエーションセンターとしても機能しているのだ。
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2019年に完成した、敷地面積4万1000mのゴミ処理発電所「コペンヒル」。


緑化の専門家を招いて植生を施した。鳥たちが集い、人はハイキングを楽しむ。


コペンヒル内部。24時間体制でゴミを焼却し、その熱で発電を行う。アーバン・レクリエーション・センターだけでなく、環境問題を学ぶための教育センターとしての顔をもつ。
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BIGの生み出す建築物には、常に「フォームギビング」という思想が根底にある。フォームギビングとは、デンマーク語で「デザイン」の意味。これは、未知の事象や考え方から未来を見いだし、新しいものを創造する行為を示している。

「現時点では、パワープラントが人工スキー場でもあることに違和感を覚える人は多いだろう。でも、私の3歳の子どもが成人したとき、こんな光景が当たり前の世界になるかもしれない。それくらい世界は速いスピードで変化している。また、フォームギビングだけでなく、BIGが設計するすべての建築物には、未来への『ギフト』が含まれている」

つまり、未来を見出すこととは、贈り物をする発想と同じだという。

「ギフトとは、誰かに頼まれて行うものではない。未来を思考し、自ら行う行為だ。ギフトをもらった人は、当初、その意図がよく理解できないこともあるだろうが、よいギフトは、後々、与えてくれた人の愛を感じ、感謝されるものだと信じる。ちなみに、ウーブン・シティは、アキオ・トヨダから未来へのギフトであり、私からではない。私はちょっとお手伝いをしているだけさ」


降雪がなくてもスキーが楽しめるよう、人工芝の選定にこだわった。


平地のコペンハーゲンにできた丘。都市の裏側に隠されがちなゴミ処理施設をランドマークに変えることで、資源問題への市民の意識を高めた。

インゲルスと話すたびに筆者が感心するのは、その歯切れのよさだ。小難しい話題や、一見すると奇抜な考えも、ダイレクトでわかりやすい言葉の選定と、常に短文の説明のおかげで明瞭になり、彼の論旨がビジュアルで頭に飛び込んでくる。

実は、インゲルスは建築家になる前に漫画家を志した過去がある。それが現在の思考にうまく機能しているのかと尋ねると、彼はうれしそうな笑顔を見せてこう答えた。

「漫画の手法は、確かにコミュニケーションには役立ったかもしれないが、それよりも実存主義の哲学家、ニーチェに傾倒したことが大きかった。彼の『アフォリズム(思想を平易で短い言葉で表す態度)』こそ、私にどんな理論も定式化することを可能にさせた。ユートピア思想を抱きつつ、プラグマティック(実践的)に対処していく姿勢こそが、どのような厳しい状況でも、私たちがユーモアをもち続けることを可能にさせると思う」

いまだ続く世界的なコロナ禍のさなか、高い志を忘れずに社会課題へ取り組み、プロジェクトを推し進めるのは至難のわざだ。だからこそ、インゲルスの未来に対するポジティブな思考や解決策は、多くの人々を魅了してやまない。
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文=中島恭子 編集=神吉弘邦

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