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2022.03.12 12:00

内戦終結から5年 「食の力」でコロンビアを変える女性たち


ところ変わって、ボゴタ中心部から少し離れたコンセプション・ノートレ地区。このエリアは元々、長閑な農業地帯だったが、近年、売春や麻薬取引などが横行し、危険なエリアと言われてきた。

内戦のために全国的に貧困家庭も増え、親の暴力などにより行き場を失い、捨てられている空き缶や瓶など、リサイクル可能なものを拾ってはわずかなお金に変えてその日の糊口をしのぐ子どもたちがいる。低所得者のための簡易宿泊所が立ち並ぶこの地区では、すぐ隣に風俗街があり、生きていくために、そこで働き始める子どもも少なくない。


「チチェリア・デメンテ」のナタリア・カレーニョ

このエリアにレストランを生み出すことで一石を投じたのが、アメリカの銀行に勤務後、2002年に故郷に戻ってきたナタリア・カレーニョ氏だ。

「チチェリア・デメンテ(Chichería Demente)」と名付けられたそのレストランは、元々は1906年に建てられた農園主の家で、取り壊してビルにされる予定だった。この建物を保全するのみならず、若い人の雇用を確保し地域活動の拠点にするために、店をオープンしようと考え、2019年に営業を開始した。

働いているのは、路上生活者やそれに近い状態にあった若者たちが中心で、従業員は現在38人。提供する食事は、昔は家庭で作られていたトウモロコシの低アルコール飲料「チチャ」や、とうもろこしの葉にすりつぶしたトウモロコシや肉を包んで蒸し焼きにした「タマリ」など、伝統に根ざしたもの。従業員たちも、伝統食を生かしたまかないを食べる。



筆者が実際にレストランを訪れると、慣れない手つきながら、最高の笑顔でサービスをする若者たちの姿があった。

「レストランを通して、地域社会の大切さを伝えたい。スタッフたちは、地域の清掃など、この地域をより良くするための活動、さらに、コロナ禍の最も厳しい状況の際には、簡易宿泊所に栄養バランスがとれた食事を届けていました。この地域は変わり続けていると思います」とカレーニョ氏はいう。

食は、人が生きるのに欠かせないもの。「レストラン」という言葉も、レストア(回復させる)というフランス語が語源だという。内戦で傷ついた人や地域に、伝統を取り戻し、地域を復興する。精神的にも肉体的にも傷ついているからこそ、食が根源的に持っている「癒しの力」がより強く働くと言えるのかもしれない。

内戦終結から5年、街は落ち着きを取り戻し、レストランで談笑する人々の姿も普通に見られるようになった。かつて黄金郷とも呼ばれた、その輝きを取り戻すために。食の力が果たす役割は、限りなく大きい。

写真・文=仲山今日子

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