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2022.01.30 18:00

音楽とシャンパン。クリュッグ「ミュージックペアリング」の魔法

鈴木 奈央

どこに連れて行かれるのだろう。東京湾を望む倉庫の脇の入り口を通り、巨大なエレベーターで案内された先は、薄暗がりだった。どこか揺らぐ心のまま、たどり着いた視界の先に、ぼんやりとクリュッグ(KRUG)のロゴが浮かぶ。耳に弦楽四重奏がひそやかに忍び込み、渡されたシャンパングラスの向こうを見ると、カルテットの姿。流れる音楽は生演奏だった。

それは、昨秋クリュッグが完成させた新しいヴィンテージ「クリュッグ 2008」の、なんとも豪奢なお披露目会の「アペリティフ」とでもいうべきものだった。演奏されていたのは、世界的音楽家、千住明氏がクリュッグをイメージして作曲した曲だ。

しばしの歓談の後、大きなスクリーンに、6代目当主オリヴィエ・クリュッグ氏の姿が映し出され、映像を通して、彼が自宅に私たちを案内する。「さあ、どうぞ」。隣の部屋に移ると、そこには総勢57人ものフル・オーケストラの姿があった。

ミュージックペアリングとは


音楽とシャンパン、どちらも、感性に訴えるものだと考えてきたオリヴィエ氏は、2014年から「クリュッグエコープロジェクト」と題し、互いにこだまするように響き合う音楽とシャンパンのペアリングを様々に提案してきた。そして、この度、世界初のフル・オーケストラとのミュージックペアリングが実現。クリュッグラヴァーとしても知られる、千住明氏による楽曲が、ご本人の指揮により演奏された。

クリュッグ グランド・キュヴェ 169 エディションに合わせて奏でられたのは、“Moon and Bubbles”。ぶどう園の明け方を思わせるような牧歌的な調べ、弾ける泡の音、そして発酵のタンクの中で起きる発酵の力強さ。そんな景色が次々と心に浮かぶ。

続いて、「レ・クレアシオン2008」楽曲内から、クリュッグ 2008をイメージした“CLASSIC BEAUTY”。最後に「レ・クレアシオン2008」楽曲内、同年の傑作であるクリュッグ グランド・キュヴェ 164 エディションをイメージした、“IMMENSE GENEROSITY”が演奏された。


クリュッグ グランド・キュヴェ 169 エディション(左)、クリュッグ 2008(右)

千住氏の耳には、「ピノ・ノワールは弦楽器に、シャルドネは金管楽器に、ピノ・ムニエは木管楽器に聞こえる」のだという。

作曲にあたっては、「『寛大さと驚きの衝撃』をテーマに、まるでオペラの楽曲を作るときのようなリクエストがあった」と解説。「ふくよかさと繊細さ、成熟と新鮮さという相反するものが同時に存在し、壮大な美しさと強さがある」と、今回のヴィンテージにつながるイメージについて語った。
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文=仲山今日子

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