そんな雅な京都らしさを新しい食の切り口で表現するのが、メインダイニング「ラ・ロカンダ」の井上勝人エグゼクティブ イタリアン シェフだ。昨年夏に新しくスタートした「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」には、そのこだわりが凝縮されている。
見事な紅葉や苔が敷き詰められ、まるで森の中の小径のようなテーブルセッティング
エントランスこそ「ラ・ロカンダ」と共有するものの、コンセプトは全く異なる。「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」は、古都ならではの歳時記が生活の中で今も息づく京都、1年を72に分けた「七十二候」の細やかな季節感をテーマにした、6席だけのレストランだ。
ラグジュアリーかつプライベートな安心感が求められる昨今の美食のシーン。そんなニーズにもマッチし、既に毎月訪れる常連客もいるという。
世界を知り、京都へ
厨房を取り仕切る井上シェフは「リストランテ ヒロ」など、国内のイタリアンレストランで働いたのち、イタリアとスペインで5年間働き、その後はイタリアの名グルメガイド「ガンベロ・ロッソ」で最高の3フォークを受賞した「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」(銀座)のヘッドシェフを務めた経歴の持ち主。世界の美食シーンを知り、日本人として、日本の食材を使ったイタリアンを提供する敏腕だ。
スペイン語とイタリア語を流暢にあやつり、インポーターとも直接やりとりをすることもあり、極上の食材が手に入る。前回筆者が訪れた際には、大人の拳よりも大きい、立派なセップ茸があった。
輸入食材だけではない。リストランテ ヒロでは、山田宏巳シェフと共に日本各地の産地を巡った。それから20年。ファンティンシェフのもとでは、食材の仕入れを統括し、生産者との繋がりを深めてきた。
国内外の上質な食材を知る井上シェフの原点は、おいしいものを愛する一家に生まれたこと。父はステーキハウスのシェフで、祖父は松阪牛を扱う精肉店を営んでいた。極上の和牛の味と香りは、子供の頃から味覚に染み付いている。