僕は、“肩の強さ”というのは、いわゆる“地肩”の強さだと考えていました。遠投大会でボールを遠くまで投げられるか、という単純な身体的能力。
でも、あるスカウトは「いくら地肩が強くても、モーションが大きくちゃダメだ。いかに素早い送球動作で投げられるかどうかも含めて、肩の強さだ」と考えていたのです。
その素早い送球動作というのは、(別の項目としてあるべき)技術の問題だ、というのが僕の主張でした。ただ、どちらの考え方も間違っているとは言えなくて、僕の評価の仕方だと、その選手の“伸びしろ(ある能力の改善の可能性)”は分かりやすい。地肩は強いけど、いつも大きいモーションで投げている選手は、そのモーションが改善すればもっと良くなるわけですから。
しかし別のスカウトの考え方のほうが、現時点での実際的な評価をするのには優れている。単純に、ある距離において、いかに速くボールを移動させることができるか、という考えだからです。
このように各項目は、解釈が分かれるケースも想定して、しっかりと定義されていなくてはいけません。
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ビジネスの“嗅覚”は評価項目になり得るか?
先ほどの営業部員の話に戻ると、例えば“嗅覚”という項目を作る必要がある、と思う人がいるかもしれません。商談の可能性がどこにあるかを見つけられるといったような。「そんなの存在しないよ」という主張も、「イヤ、優秀な営業マンには必ず備わっている」という主張もあるでしょう。評価デザイナーの考え次第ですから、正解不正解はありません。
でも、“肩の強さ”でさえ解釈の違いが生まれるわけですから、こういった概念的なものは、もっとしっかりと定義をしなくてはいけません。ここで「嗅覚は嗅覚だよ、分かるだろ?」などと言ってしまうとダメ。
「定義ができていないものを評価しろ」と言われ、それぞれがそれぞれの解釈で評価をしてしまったら、公正な、開かれたかたちにはなり得ません。逆にしっかりと定義さえできていれば、どんなものだって、立派に項目として存在し得ます。
言葉一つ一つに注意しながら定義を行うことで、解釈の疑義が生じないように、境界にきれいな線を引いていく。そんな作業が求められます。
次回(8月3日公開)は、各評価項目の比重について、レーダーチャートの致命的な欠点とともに考えていきます。
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