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2022.02.05

日本が世界に勝つ「独自性の市場」は、スピードでもスケールでもない

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筆者は、前回までの論考を踏まえ上に示した図の「右側」にこそ、グローバルジャイアントが参入しにくく、多様な価値観を重ね合わせてきた日本がもっとも力量を発揮できる領域であると確信しています。

では、具体的にどのように検討を深めるべきか、その論点を「戦略」「リーダーシップ」「オペレーション」の3レイヤーに分けて解説します。

1:戦略:少量多品種に対応し多様性を追求


古い経営学の教科書を開くと、プロダクトの価値は「コストバリュー」と「プレミアムバリュー」のふたつであると書かれています。大量生産による低コスト化、そして機能やデザイン、ブランディングによるプラスαの価値こそがプロダクトの魅力を高めるということです。しかし1980年代に入ると日本企業が新たな価値を生み出しました。「少量多品種生産」です。

半導体製造装置や医療機器、航空機やロケットなど、民生品と比べ非常に高度な加工精度が要求される精密板金加工分野は、一品あたりの生産量は非常に限られる一方品数は多く、また製品ごとに多様な仕様要求に応える必要があり高い利潤を得ることが難しい産業と言われてきました。そんな中、日本の町工場は工場同士で連携を組み、圧倒的なオートメーション化を図り、また高額の工作機械を共同で購入しそれをカスタマイズし、最終的には「一日板金」「一個生産」を実現してきました。



最近では、全国の印刷工場を束ね多種多様な印刷物を請け負うラクスル、金属加工分野で言うとキャディのように、デジタルの力を活用し経験豊富な職人の技術、特殊な加工設備を有する工場の生産力を最大限に引き出すBtoBマッチングサービス、累計出品点数が25億を超えたメルカリのビジネスはCtoCビジネスなど、多様性を軸とした日本の強みを生かしたデジタルビジネスも立ち上がってきております。

また、グローバル展開している一部の日本企業では、古くから本社と海外現地法人とで異なる経営方針・販売施策及び社員の採用基準を用いている企業もあります。日本では正しいとされる方法が現地で通用するとは限らないためです。これはトップダウンによる中央集権的なガバナンスを是とする欧米企業ではあまり見られない傾向と言えるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)は、欧米からきた新しい概念として受け止められていますが、多様な存在を認め活用する「アワセとソロイ」、自然を規範とし努力と研鑽を厭わない「シゼンとキンベン」という、古くから日本人が大切にしてきた特性そのものであり、今日のビジネスを考える上でも、この特性を活かすべきだと筆者は考えます。

2:リーダーシップ:日常感覚に訴えるストーリーを提示


日本企業はトップダウンでは動かない。いろいろな所で聞く言葉であり、そのように感じる方も多いと思います。一方、前回紹介した石田三成のリーダーシップに見るように、トップに大義を与えつつ、「オモカゲ」として象徴的な存在とし、そこから「ウツロイ」として執行権限を握った現場の納得感が醸成された時に、日本人の集団を大きな力を発揮します。

現場の納得感は、その仕事が日常の中の喜びを生み、自らを高めることにつながると感じた時に醸成されることを、我々が持つ「シゼンとキンベン」の特性が教えてくれます。
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文=中村健太郎(アクセンチュア)

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