ビジネス

2022.02.05

日本が世界に勝つ「独自性の市場」は、スピードでもスケールでもない

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かつてホンダは、のちに業務用オートバイとして大ヒットするスーパーカブの広告で、排気量や馬力よりも大きな文字を用いて、集団就職で上京したばかりの青年に「片手運転もOKの素晴しい性能・ボクだって働きがいがあります」と語らせ、多くの共感を得たといいます。(参考:HONDA

こうした日常感覚に訴える広告戦略は、ホンダの創業者である本田宗一郎の発案によるもので、居丈高に性能を誇示するよりも日常感覚に訴えるストーリーを選ぶことによって、消費者の心をつかむとともに、社員のモチベーションを高め、ホンダが体現すべきフィロソフィーを浸透させるのに成功したと言われています。

情報出版事業からテックカンパニーへの転換に成功したリクルートも、社員の意欲をかき立てることに長けた企業のひとつです。同社では事業部ごとに半期に1度開催する、全社社員参加の「キックオフ」の場で、ビジネス最前線で奮闘した写真にスポットを当てたたえ、社員にとっての身近なヒーローを作り出します。これは現場のやる気に火をつけ、経営ビジョンの再確認と今後の事業戦略の浸透を図るのにも有効だからです。

3:オペレーション:企業内の共通事業基盤の確立


少量多品種から転じて、ニッチ市場を狙った小規模事業を展開するうえで、コスト競争力が大きな課題となります。我々の諸先輩方はそれを徹底したオートメーションで工場内を最適化してきました。

工場を企業に見立てれば、デジタル化・共通化によって、企業内のオペレーションコストを下げる余地はまだまだ十分にあります。また、デジタルを前提としたビジネスプロセスを再構築すること、個別事業の特殊性を保ったまま、ミドル・バックエンドを共通化することも可能になってきました。

事実アクセンチュアでは、世界200箇所の拠点で個別の顧客に最適化されたサービスを展開しながら、バックエンドの仕組みは世界で標準化されており、非常にコスト競争力のあるビジネスオペレーションが構築されております。

このような仕組みを日本企業型にアレンジすることで、小規模ビジネスにコスト競争力を付与し、新たな企業基盤を確立することができれば、グローバルジャイアントとは一線を画した事業展開が可能であると考えます。

いかがでしょうか。業種や業態により選ぶべきビジネスは異なるでしょうが、今後の日本企業の勃興のための検討の一助になれば幸いです。

次回はここからさらにもう一歩踏み込み、日本型リーダーシップのあり方について言及したいと思います。


【連載】今までにないアプローチでデジタルを理解する

#1:戦争論もドラッカーも古くない。デジタル時代こそ古典ビジネス論へ
#2:何かご一緒できたら──は無用。日本企業はスタートアップを正しく評価せよ
#3:ビジネスプラットフォームに活路? ならば肝に銘じる4つのポイント
#4:グローバルジャイアントが日本に生まれない、宗教の行動様式という新視点
#5:アワセとソロイ? 日本人の精神性が、ビジネスで弱点ではない理由
#6:日本が世界に勝つ「独自性の市場」は、スピードでもスケールでもない

保科氏の社h心
中村健太郎◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 兼 航空飛行・防衛産業 日本統括 マネジング・ディレクター。フューチャーアーキテクト、ローランド・ベルガー、そしてボストンコンサルティンググループを経て、2016年にアクセンチュアへ参画。全社成長戦略、新規事業創造、デジタル、組織・人材戦略、M&A戦略、等の領域において、幅広い業界のコンサルティングに従事。

文=中村健太郎(アクセンチュア)

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