発電所建設や森林保全。国際協力の効果検証で活躍する衛星データ
せりか:ところで、衛星データはどんな場面で使われているのでしょうか。衛星データを使うきっかけは何だったのですか。
石本:初めて衛星データを取り入れたのは、前職のJICAで、カンボジアのある町の小水力発電所を建設する事業の事後評価をしていたときのことです。
普段は、相手国の政府や世界銀行などの国際機関、研究機関が公開している経済成長率等を表すデータを使って、事業の効果を検証します。ところが県や地区レベルのデータは集計されていないこともあるのです(苦笑)。
小水力発電所を建設した町は非常に小さくて、そもそも経済成長率が整理されていませんでした。それでは評価ができないと困っていたところ、衛星が撮影した夜景「夜間光データ」と経済指標は相関がある……つまり、夜間光が増加傾向にあれば、経済活動が活発化していると考えられることを知ったのです。
衛星が撮影した夜間光のイメージ
実際にカンボジアの町の夜間光データを分析してみたところ、小水力発電所が建設された以降は夜間光の量が増えていたため、経済成長をしているという評価をしました。
せりか:発電所が整備されれば電気が普及するので、夜間光が増えるというわけですね。すごい! ほかには、どういう場面で衛星データを使っているんですか。
石本:マラウイの町の森林を保全する事業の評価にも衛星データを使っています。
この町は木炭が主要なエネルギーなので、住民たちは家事をするために木を伐採しています。
違法な炭焼きや耕作・放牧等が原因で荒廃が進んだ森林 出典:COSMA-DFR
すると、雨を堰き止めていた森林が減ってしまい、雨が降ると川に土砂が流れていってしまうようになりました。その結果、川に土砂が溜まってしまい、水力発電の発電量が低下してしまったのです。そこで、JICAが森林を保全する事業を立ち上げたのです。
事業の効果を検証するために、衛星データを使って事業の実施前と後の森林面積を比較しました。
せりか:森林面積も衛星データで把握できるんですね。衛星データを取り入れる前は、どのように調査していましたか。
石本:森林面積のデータがないときは、支援事業を行う村落を一つひとつ周って、「どのくらいの森林がありますか」とヒアリングをしていたんですよ。対象の地域が10箇所くらいなら、なんとかなります。でも、対象の地域は200箇所、多いときには800箇所もあって、とても周りきれないんです。
とはいえ、事業は税金で賄われているため、調査にはコストがかけられないのが実情。限られた時間のなかでヒアリングできた情報に頼って、評価をしていました。事業を検証する評価者にとっては、もちろん全部のデータを確認できるに越したことはありません。衛星データで必要な情報を得られれば、より正確に事業の効果を検証できるようになります。