世界のESG投資額を集計する国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、2018年から20年までの2年間で世界全体のESG投資額は15.1%増加し、35兆3010億米ドルになった。ESGは以前、上場企業のみに問われていた投資判断の基準だった。
「いまは未公開企業でもガバナンス、ダイバーシティが問われる時代になっている。当然上場すると投資家から厳しい目で見られるため、早い段階での本質的な対応やマインドシフトが必要だ」と松井は強調する。
村上は、日本でもESG投資に注目が集まっている現状は肯定的に評価しながらも、ソーシャル・インパクト型投資と混同されやすく企業にとってコスト要因と見られることに異議を唱え、「ESGは企業に競争優位をもたらす要因だと考えている。ESGを実装することで、その会社の企業価値を高めることができるということを今回のファンドを通して実証しようと思っている」と語った。村上もOECD以前、主にニューヨークやロンドンのゴールドマン・サックス証券のマネジメント・ディレクターとして約20年間勤務した金融の専門家だ。
設立時から大口の機関投資家として名乗りを上げた第一生命保険、SOMPOホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングスはもともとESGを投資戦略の中心に据えている。今回3社は資金を投入して終わるのではなく、VCのESG重視型投資の方法についてMPower Partnersと意見交換をすることでともに学ぶ機会にしたいと考えているという。その他の投資家からも資金は集まりつつあり、現在目標とするファンドの規模160億円に向けて資金調達は「順調に行っている」(村上)という。
同時に、スタートアップに対するESGの評価手法に関しては手探りの段階だともいう。上場企業がのESGのフレームワークでスタートアップに使えそうなものを抽出しているが、必要なフレームワークは企業、セクター、投資ステージによっても違うため、ファンド側から押し付けることはしないという。
投資先については21年8月上旬時点で2号案件まで決まっている。6月に発表した1号案件は保育テックのユニファ。テクノロジーを活用して保育や子育てに関する社会課題を解決するスタートアップだ。7月に発表した2号案件はWovn(ウォーブン)テクノロジーズ。多国籍企業におけるマイノリティ言語の社員や顧客のためにインクルーシブなプラットフォームを開発している。
MPower Partnersはそのほかにもメンタルヘルスを含むヘルスケア、フィンテック、DX、循環経済環境などの分野のスタートアップに注目しており、とくに生産性向上につながるSaaSはグローバル市場に向けて将来性が高いと見ている。「大きな社会問題を解決するソリューションはビジネス・チャンスがあると見ている」と関は言う。