韓国のネット通販大手「Coupang(クーパン)」のCEOボム・キムはハーバードビジネススクールの1年生のとき、友人のマシュー・クリステンセンにスタートアップのアイデアを打ち明けた。韓国出身のキムは、すでに自ら立ち上げたハーバードの卒業生向けの雑誌を売却し、その会社が倒産するのを目の当たりにするという経験をしていた。今度はソウルに戻り、グルーポンのようなディスカウントを提供する企業を立ち上げたいというのだった。
マシュー・クリステンセンは、キムがボストン・コンサルティング・グループに勤務していたときの同僚で、著名な経営学者でビジネスの第一人者クレイトン・クリステンセンを父にもつ。キムの事業に個人的に出資していた。
このときの、キムのアイデアに対するマシューの最初の反応は「面白いけど、まずは卒業しろよ」だった。しかし、キムは諦めず、この話題でのやりとりが3度目になるころにはマシューの考えも変わり、2010年になると「学校をやめて、いますぐ始めるべきだ」と言うようになっていた。そこでキムはビジネススクールを中退し、クーパンを創業した。まだパワーポイントの資料だけの存在だったクーパンに、マシューはすぐに出資した。
そしてクーパンは2021年3月11日、IPO(新規株式公開)を実施し、ニューヨーク証券取引所に上場した。アジア企業の米国での上場としては、14年のアリババ以来の大規模なIPOとなった。調達額は45億5000万ドルに達し、42歳の起業家キムの純資産は一時110億ドルまで跳ね上がった。マシューが経営する投資会社「ローズ・パーク・アドバイザーズ」が保有するクーパン株5.1%も、上場から2日で40億ドル超となった。
3月14日の投資レポート「ミダスタッチ」によれば、20年のクーパンの売り上げはパンデミックの影響で120億ドルにまで増加。その週の終値による時価総額は830億ドルを超えた。
この高騰で最上級の勝ちを手にしたのがローズ・パークだ。ほかにも、かつて本誌が選ぶ30歳以下の企業家リスト「30UNDER 30」に選ばれたニール・メータが創業した「グリーンオークス・キャピタル」はクーパン株の16.6%を、マーベリック・ベンチャーズは11年から6.4%を保有。ソフトバンクの投資家リディア・ジェットも、創業者である孫正義の投資戦略の正しさを証明し、歴史的快挙を成し遂げた。ジェットは、15年から18年にかけてクーパンに27億ドルを出資して約33%の株式を取得。
クーパン上場直後の週末、彼女がパートナーを務めるビジョン・ファンドの保有株式の評価額は270億ドルを超えた。
「韓国という国にこの規模の資金を投入して経営陣と一体となって運営に取り組めば、誰にも真似のできないものを構築できる自信がありました。それが証明できたことに興奮しています」(ジェット)