皮肉にもESG投資の隆盛によって特定のセクターや企業が忌避された結果、投資機会を生み出した。投資機会を逸した投資家は地団駄を踏んだに違いない。そして、ESGを推進する人間からは非難の声が上がる。しかし、バフェット氏を「目的をもった投資をしないひきょう者」として非難することができるだろうか?
バフェット氏が主張する通り、投資家の一義的な目的はリターンの最大化にほかならない。推進派は「ESG投資は高い収益をもたらす」と主張するも、エネルギー関連株への投資事例からわかる通り、ESG投資がリターンの最大化につながるとの保証はない。環境・社会・企業統治の要素と投資リターンの関係性は常に大論争の的だ。数々の研究結果は、調査期間や対象などによってまちまちで、一致した見解は出ていない。ESG投資に対する期待値は高いものの、非財務情報の分析に基づく同戦略を推進するためには、長期間に及ぶ不確実性を受け入れるほかないのが現状だ。
こうしたESG投資の負の側面は、パフォーマンスの問題以外にも多数存在する。まず、取り上げておくべきなのは、投資プレミアムの存在であろう。機関投資家のESG投資意欲は年を追うごとに高まっており、関連する資産への需要も強い。その需要の行き先のひとつが「ESG債」だ。ESG債は、特に社会問題や環境問題に取り組む資金の調達を目的に、企業や公共団体が発行する債券の総称である。複数の種類があるが、最も一般的な債券は森林環境保全や温室効果ガス削減への資金調達を目的とする「グリーンボンド」である。
PRIの理念を体現するESG債は、投資家にとって理想的な資産である。しかし、投資家がESG債を購入する際には、一般的な債券に比して割高な価格を支払う必要がある。こうしたESG債に対する上乗せ価格を「グリーニアム(グリーン+プレミアムから)」と呼ぶ。債券の発行体や年限などによっても異なるが、数ベーシスポイント(1ベーシスポイント=0.01%)から数十ベーシスポイントのグリーニアムが1銘柄ごとに生じている。グリーニアムが生じる背景は、強すぎる投資家需要の一方で、ESG債の新規発行量が不足していることがある。
グリーニアムの存在は需要過多によって調達金利が低下するため、ESG債を発行する企業や公共団体にとっての利点は小さくない。一方で、投資家側にとっては、金利の低下が投資リターンの減少につながる。特に、低金利環境下で運用利回りが低位に抑制されている状況下では、たとえ数ベーシスのプレミアムであったとしても投資家の負担感は強い。ESG投資を推進するために、自らの投資リターンを犠牲にしなくてはならないのだ。