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2021.08.16 08:00

「共通のESG基準」が投資家にとって極めて重要な理由

企業には気候変動対策への取り組みが一層求められている(Shutterstock)

企業により一層の気候変動対策が求められるなか、共通したESGの評価基準を定めることを目的としたプロジェクトが立ち上がりました。世界経済フォーラムのアジェンダからご紹介します。


・投資家は企業に対し、気候変動対策への一層の取り組みを求めています。
・現時点では、企業のレジリエンスや、環境・社会・ガバナンス(ESG)課題への対応状況を測定するための、比較可能で透明性の高いデータは存在しません。
・世界経済フォーラムの「ステークホルダー資本主義メトリクス」を支持することで、投資家は世界中のESG報告の改善に貢献することができます。

この記事で取り上げたテーマについては、コミュニティ・ペーパー「ステークホルダー資本主義メトリクス:投資家の視点」を読むことで、さらに深く掘り下げることができます。

今年は、気候変動分野において非常に重要な年です。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の開催まであと数カ月となりましたが、新型コロナウイルス感染拡大による影響や温室効果ガス削減の公約にかかわらず、世界の二酸化炭素排出量は増え続けています。

取締役会は企業に更なる改善を求める投資家からの圧力にさらされており、最近では、「物言う株主」であるエンジン・ナンバーワン社が提案した取締役候補3人が、エクソンモービル社の取締役に選任されたことが話題になりました。また、リーガル・アンド・ジェネラル社は、気候変動リスクへの対応が不十分として4社をダイベストメント(投資引き揚げ)の対象とすると発表したほか、ブラックロック社は2021年第1四半期に、気候変動や社会問題に関する提案の75%を支持しました。

投資家はいま、気候変動に対して行動をとらないことを重要なリスクとみなしています。457の投資家を代理し41兆ドルの資産を運用しているグループは、「気候変動対策レースでトップを目指す」ことを呼びかけ、更に「低すぎる目標設定と、遅すぎる動き」をしていれば、もたもたしているうちに何兆ドルもの投資を逃すことになると警告しています。

気候変動が取締役会の議題として取り上げられるようになってきていますが、問題はそれだけではないということを投資家は認識しています。地球や人間、社会に悪影響を及ぼすリスクは、より広範囲にわたっています。

例えば、人権分野の機関投資家イニシアチブのメンバー208社は企業に対し、コミットメントの強化、厳格なデューデリジェンス、透明性の高い改善策、報告の改善などを通じて、人権分野の行動を加速させるよう2月に呼びかけました。また、2020年にワールド・ベンチマーク・アライアンスが評価したグローバル企業230社のうち、「人権に対し真剣に取り組む意思とコミットメント」を示した企業はほんの少数でした。

エデルマン社が機関投資家を対象に行った調査では、社会的要素とガバナンス要素の重要性が高まっていることがわかりました。

ESG
米国の機関投資家は、ESG要素の中でも「社会的インパクト」を最重要視している(イメージ: Edelman)

総体的に、大多数の投資家は、ESGを企業価値の中心ととらえています。エデルマン社の調査によると以下のことが明らかになりました。

・投資家の10人に9人は、今後半年の間に気候変動リスクへの取り組みを加速させる予定であり、取締役会には少なくとも1つの環境課題を監督することを求めている。
・投資家の88%は、ESGの取り組みを優先する企業は、優先していない企業よりも長期的なリターンを生み出す機会が多いと考えている。
・回答者の93%が、投資にあたって、アクティビスト(物言う株主)のアプローチに関心があり、アクティビズムが増加すると考えている。
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文=Maha Eltobgy, Head of Shaping the Future of Investing; Member of the Executive Committee, World Economic Forum; Tom Brown, Global Head Emeritus, Asset Management, KPMG International; Nadja Picard, Partner, Global Reporting Leader, PwC, Germany

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