投資家が、意思決定のためにより良い情報を求めていたとしても、すべての企業から一貫した方法で情報が得られているわけではありません。
共通のESG基準がないことで生じる「グリーンウォッシング」
投資家はポジティブな変化をもたらすきっかけとなることができますが、投資先企業に圧力をかけるためには、それらの企業がどの程度レジリエントで持続可能性があるか、質的・量的な情報が必要です。いまのところ、世界共通のESG指標を用いた、一貫性があり比較可能な報告書はありません。
現在使用されているESG評価やランキングは600以上あり、データを利用する投資家や企業にとっては大きな課題となっています。ESGランキングが複数あると、最も良い評価を出しているプロバイダーを「いいとこ取り」して、上辺だけ環境保護に熱心であるように見せる「グリーンウォッシング」が可能になってしまいます。実際に多くの指標を用いて企業の進歩状況を比較することは、ほとんど不可能です。
この問題を解決するために、世界経済フォーラムのインターナショナル・ビジネス・カウンシル(IBC)は、デロイト、EY、KPMG、PwC(プライスウォーターハウスクーパース)と共同で1年間のプロジェクトを立ち上げました。その目的は、企業が主な年次報告書で報告すべき21のESG中核指標を特定することで、断片化してしまったサステナビリティ報告書の現状を打破し、サステナビリティのグローバル基準の策定に向けたモメンタムを高めることにありました。
2020年9月に発表された「ステークホルダー資本主義メトリクス」は、既存の十数種類の枠組みから意図的に照合したものです。これは、あらゆる産業で簡単に報告できる簡潔かつ市場主導の既製のメトリクスです。
グローバルスタンダードが確立され、広く採用されるまでには数年かかるでしょう。それまでの間、ステークホルダー資本主義メトリクスは、企業が比較可能なESG報告をもとにいますぐ行動を起こし、来るべきグローバルな基準や規制に向けて準備するための貴重な手段となります。しかし、なぜ投資家がグローバルに認められたESG基準を支持すべきなのでしょうか?
1. 企業が、企業のために支援する
120以上の企業で構成される世界経済フォーラムIBCの最高経営責任者(CEO)は、ステークホルダー資本主義メトリクスに対して、関連するESGパフォーマンスの側面を測定・開示し、投資家やその他のステークホルダーに伝えられるようにすることを求めました。中核指標は、負の影響(温室効果ガス排出や強制労働など)だけでなく、より健全な社会や生態系の実現に向けて企業が実施している貢献も対象としています。これらの指標は、企業が最も重要なESGリスクと機会を取締役会レベルで特定するのに役立ちます。