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2021.12.14

ESG投資をめぐる「不都合な真実」とは?

Bagel X代表取締役 大崎 匠


SDGsへの期待が「誇張」を誘う


ESG投資が内包するもうひとつの課題が「グリーンウォッシング」だ。グリーンウォッシングは、企業や公共団体が環境保護の取り組みを誇張することを意味する。「目的をもった投資」という投資思考の変革が起きている現代では「投資家がESG投資を推進することによって、投資対象である企業がSGDs活動に一層注力する」という好循環が生まれる。しかし、投資家側が企業のSDGs活動を評価する術(すべ)は多くなく、ほとんどが年次レポートなどを通じた企業側からの情報開示に依存している。

各企業は、自社ウェブサイトや年次レポートで、自らのSDGs活動を積極的にアピールしている。企業側からするとSDGs活動へ注力することが資金コストを低減し、株価を押し上げるだけでなく、世間からの称賛を浴びることにつながる。そうであれば、自然とSDGs活動を誇張するインセンティブが働いてしまうのだ。事実、中身のないSDGsプロジェクトを乱発し、それを言いはやすというモラルハザードを起こしている事例は数多く存在する。

先に挙げたESG債も、グリーンウォッシングの問題を孕はらんでいる。無秩序なグリーンボンドの発行を抑制すべく、各国の金融当局はガイドラインを制定し、正式な「グリーンボンド」として発行できる条件を定めている。しかし、国によってガイドラインの細目はバラバラであり、基準が著しく緩いケースもある。

例えば、中国は米国に次ぐグリーンボンドの最大規模の発行国だ。しかし、同国におけるグリーンボンド発行ガイドラインでは、調達資金の少なくとも50%を環境保全プロジェクトに充てるだけで「グリーンボンド」として債券を発行できる。つまり、グリーンボンドと称しながらも、資金の半分はSDGs活動とは関係のない経済活動に転用できてしまう。こうした承認基準の緩さが、中国を世界最大のグリーンボンド発行国に押し上げたという見方もある。

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ESG投資の隆盛を背景に、近年グリーンボンドの発行は激増。なかでも特に発行量が増加しているのが中国だ。2060年までのカーボンニュートラルを目標に掲げる中国は、温室効果ガス排出量を削減させるために環境保護プロジェクトを推進。企業もそうした動きに呼応して、グリーンボンドの発行によってプロジェクトの立ちげを企図する。結果、中国は世界2位のグリーンボンド発行国となったが、発行基準が緩すぎるといった懐疑的な意見もある。

機関投資家の顧客、つまり株主や契約者などの「最終受益者」である私たちは、こうした「不都合な真実」をどうとらえるべきか。比較的新しい、この投資戦略が推進されることで、追加的コストは転嫁され、自らの資産を脅かす不確実性を背負い込むことになるかもしれない。その不利益を被るのは最終受益者だ。

ESG投資の隆盛を含め、変化に富む現代だからこそ、企業を選別する「投資思考」が問われている。時流に流されず、個々人が一貫した思考を醸成することが、激動の時代を生き残るための唯一の術だ。そして、その思考回路によって、情報を取捨選択する勇気をもつことが私たちに求められている生き方だろう。


大崎 匠◎Bagel X代表取締役。外資系金融機関で日本の投資責任者として運用戦略やESG投資戦略の立案・実行を担った後、2021年起業。日本と米国の金融機関で、債券から不動産まで幅広い資産の運用に携わる。「資産を人の手に」をミッションに掲げ、テクノロジーを用いた資産運用支援サービスを提供。

文=大崎 匠

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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