ビジネス

2021.12.06

2021年、「ギアチェンジ」した日本のスタートアップの進化


象徴的事例に共通する「中抜き」の構図

━━ DNX Venturesマネージングパートナー/日本代表 倉林 陽

日本のスタートアップ・エコシステムの成長・拡大における、B2B SaaS企業の果たした役割は非常に大きかった。東証マザーズ市場の時価総額上位10社を見ると、現在は半分程度がSaaS企業になっている。時価総額自体も5年前と比較しても、大きく上回っている。

これら上場企業に続く、未上場企業のなかで、我々の投資先ではアンドパッドやdataX、カケハシといった企業が、投資先以外では、SmartHR、atama plusといった企業が、代表的なB2B SaaS上場企業と同等、それ以上に評価されると期待されている。さらに、レブコム、FLUX、コミューンといった若いスタートアップのアーリーステージでのARR(年間経常収益)成長率は先輩企業たちのそれを上回っている。加速度的に成長し続けるB2B SaaS領域のスタートアップ・シーンはさらに拡大するだろう。

2021年を象徴する事例は、SmartHRのファイナンスだ。大きなTAM(獲得可能な最大市場規模)のリーダーであるSmartHRに対して、海外投資家が、あの評価額(1,700億円)をつけてでも長期的投資目線であればリターンが得られると考えたと思う。日本のカテゴリーリーダーには、海外投資家からの資金がつくという成功事例になったのではないか。

もうひとつは、米ペイパルによるPaidyの3,000億円のM&A(合併・買収)だ。海外投資家、海外企業から評価されるスタートアップが出てきたことは素晴らしいが、一方で2つの事例に共通するのは、「中抜き」だ。日本の投資家、大企業を飛ばして、海外の投資家、企業と直接やりとりしている。日本の大企業、投資家には、「これでいいのか」という問いが生まれたのではないか。

特に、日本の大企業においては、CVCを始めて、形としてはベンチャー・エコシステムに参画しているが、M&Aを実行して戦略的リターンを自らに取り込むという、言わばデジタル時代の重要な経営手法であるコーポレート・デベロップメントを本気で実施して企業価値を高めていく姿勢が、いまだにほとんど見られない。CVCはその手段でもあるにもかかわらず、目的化している状況だ。

こうした影響もあり、資金が供給過多になっているのではないか、という課題もある。日本の大企業の資金参入、かつ2人組合という日本独自のユニークな形式で、大企業がVCにCVC業務をアウトソースする形態が広まり、供給量が増えている。さらに、海外投資家もレイトステージ投資に参入している。ティー・ロー・プライスのような海外機関投資家やKKRをはじめとしたプライベートエクイティファンドなどビッグネームが日本のスタートアップシーンに参入し、それに伴い、新興海外投資家が、より前のステージに参入するという流れが起きている。

これから起きるのは、「VCの選抜」だ。米国の現象である「パワー・ロー・カーブ」、いわゆる一部のトップティアVCだけが優良なスタートアップに投資でき、リターンの多くをトップティアVCがとっていく世界だ。米国でVCとして勝ち続けるのは厳しい世界だと言われているが、日本も選ばれる投資家、選ばれない投資家が出てくるだろう。優秀な経営者に信頼してもらえるためには、投資家側にも深い業界理解、事業経験、投資実績が必要になってくる。これが本来あるべき姿だろう。エコシステム全体にとって、長期的に考えればいいことだ。(談)
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Forbes JAPAN編集部=文

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