ではまず、大企業がDXを進める為のポイント、要件はどのようなものなのでしょうか?
村上:先ずは、デジタル化していないとお話にならないので、足元をしっかりと固める事が大切だと考えます。もう1つ大事なのは、トップの覚悟。トップが「デジタルトランスフォーメーションをしっかりやりきるのだ」と意識を高め、それに関しての投資をする覚悟が重要だと思います。
加治:日立では、ソーシャル・イノベーションという言葉を10年以上前から言っています。最近、日立に30年近くいらっしゃる方が、ハピネス・プラネットという会社を立ち上げました。このように社員にとっての遠心力を効かせる。すると、私は外から求心力によって参加したのですが、このと遠心力と求心力の間に、ファジーな領域が生まれます。どれだけファジーな部分を作るかがイノベーションにとって大切かと。最近日立はルマーダ・アライアンス・プログラムを作りましてSFDCやマイクロソフトやグーグルといった会社が多数入り、ルマーダを広げて下さっています。そういったファジーさが重要ではないでしょうか。そして、村上さんがおっしゃっておられたように、トップの危機感。どれだけ危機感を持てるかが、イノベーションの起点になるとおもいます。
最近の経営者も危機感を大きく持っている方が増えたように思います。したがって、マッキンゼーやアクセンチュアのような高度な戦略を提供する企業が急成長しているのは、ある種の危機感による経営者の覚悟が表出したのではないかと思います。
撮影:伊藤 淳
安宅:3種類の企業があって、ひとくくりには議論出来ません。伝統的なハードなアセットとリアル空間でのスキルを中心とした「オールド・エコノミー」、IT企業に代表される、サイバー空間でのサービスとスキルを前提とした「ニュー・エコノミー」、そして「第三種人類」と僕が呼んでいるサイバーテクノロジーを前提としリアルを刷新している会社では、経営課題も大きく異なります。「ニューエコノミー」は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表され、世界的なサバイバルゲームが繰り広げられています。テスラ、Airbnb、One Webのようなサイバーマインドを持ってリアル革新を行う「第三種人類」が入ってきている領域が現在の最大の戦場という理解です。この状況下で日本は、世界的な戦いの場から離れて「オールドエコノミーの刷新」などという話題に足を取られています。
デジタルはBeing DigitalをMITメディアラボ創設者のネグロポンテ先生が出されたのが1995年ということから分かる通り、30年前からのテーマです。デジタルはテキストも動画もあらゆるものが混ざり合う「溶かす力」を持っており、インターフェースのフォーマットにも自在に対応できるようになる。空間や時間の制約も超える。人力を遥かに超えた情報処理が可能になり、様々な状況判断を伴う活動も自動化する。このように産業の前提を変える技術変革なので、その方向に変わるしかありません。例えばカメラ、フィルム、プリントという産業は、「スマートフォン」「クラウド」「インスタグラム」という3つに切り替わりました。このように、かつて主流だったものが粉々になって、産業の切り口まで含めて全く新しい形に変わる変化が、今、激速で起きています。この認識を持てば「オールドエコノミー」とか「ニューエコノミー」とか言っている場合でない。つまり、次の時代をエンビジョン(描く)するのだ、という意識を持つのが大切だといえるかと思います。
谷本:石倉さんは、これまで企業で様々なコンサル・アドバイスをされるお立場でいらっしゃいましたが、その視点から、企業は何をしていったらいいか、お聞かせ下さい。
石倉:安宅さんが話されたように、構造が変わっている事を受け入れ、どう競争していくかゼロから考える事。デジタルは試行錯誤がカギとなります。大きな設備に投資して、一度決めた事をやり続けるのでなく、「これが駄目なら、あっちでやる」という風に、小さく始めて修正していく発想の転換が必要だと思います。企業の外にはデータが沢山あるけど、どう使ったらいいか分からないし、標準化されていないので使えないケースが多いのも問題ですね。