食材の壁を越えて。パリで腕を磨いたシェフが京都でつくるフランス料理

古賀隆稚シェフ(左)と「ル・サンク」のクリスチャン・ル=スケール氏(右)

ホテル内にある、「ブラッスリー」というレストラン。いかにもオールデイダイニングらしい名前だが、それににだまされてはいけない。実はこのレストランを率いるのは、パリのミシュラン三つ星シェフ、クリスチャン・ル=スケール氏のもとで7年間研鑽を積んだ気鋭のシェフだ。

最終的にはフォーシーズンズホテル・ジョルジュサンクパリのメインダイニング「ル・サンク」のスーシェフとして、三つ星の厨房を支え、チームの厚い信頼を得てきた古賀隆稚シェフ。パリ以前の日本では、5年間「ジョエル・ロブション」に勤務し、若手シェフの登竜門である「サンペレグリノ・ヤングシェフ」のフランス国内予選のファイナリストとなるなど、その実力が国内外で認めらていた。

縁あって、筆者はル=スケール氏の取材の際に出会い、パリ時代からお世話になっているが、控えめな物腰ながら料理に強い情熱を持っていることは、少し話すだけでも伝わってくる。

2019年2月に帰国し、5月にフォーシーズンズホテル京都 ダイニング「ブラッスリー」のチームにジョイン。京都の食材を生かしたブラッスリーらしい定番料理を提供していたが、「パリで磨き抜いたガストロノミーの料理を味わいたい」というゲストの声を受け、去年から、3日前までの予約必須の8皿のお任せコースをスタートした。



帰国して2年あまり、自ら生産者に会いに足を運び、「日本の食材だから、京都の食材だから、ではなくて、きちんとフランス料理の文脈、味覚の中で美味しいと思えるものを使いたい」と向き合ってきたが、フランス食材と日本食材の違いに悩むこともあったという。

特に悩ましかった食材が、野菜だった。「日本の野菜は甘味があり、苦みが穏やか。優等生的で味はまとまるけれども、主役になる力強さが欠けている」と感じていたからだ。

しかし、去年、京都北部にある樋口農園と出会い、フランスの野菜さながらの、しっかりとした苦みや酸味、香りのある野菜に感銘を受けた。「ルッコラなら、目が覚めるほど辛い。こういった個性的な味を組み合わせて、おいしいものを作るのが料理人の仕事」と言う。
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文・写真=仲山今日子

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