2019年の開業にあたり、山荘 京大和とパーク ハイアット 京都の合計約2700坪の敷地の庭を手掛けたのが、数々の禅寺の作庭で知られる作庭家、名匠・北山安夫さんだ。そこには、「庭は小さな宇宙」と位置付ける北山さんの世界が広がる。
そのホテルにおいて、シグネチャーレストラン「八坂」の料理長を務める久岡寛平さんは、陶芸家を経て、パリでミシュランの星を獲得するという異色の経歴の持ち主。器は「料理の着物」ともいわれるが、器の作り手としての視点も持つ久岡さんが生み出す料理は、料理のみならず、器や建物、さらにそれを包み込む庭や景色までが、一つの世界観を形成している。
京都という土地で織りなされる日本の美意識とは何なのか。二人の対話を通して紐解いてゆく。
シグネチャーレストラン「八坂」の料理長 久岡寛平(左)作庭家 北山安夫(右)
──久岡さんが、陶芸家から料理人に転向されたのは、どんな経緯だったのでしょうか?
久岡:父が陶芸家で、20歳過ぎまで、父と共に土をこね、器を焼く生活を送ってきました。しかし、初めて旅行で訪れたフランス・パリのレストランで、皆がとても楽しそうに食事をしているのを見て、料理の世界を志し、16年間をフランスで過ごしました。
──北山さんは、ご実家が庭木を育てる資材会社でいらっしゃったのですね。
北山:そうですね、小さいころから、庭木が身近にあり、木と対話しながら育つような環境でした。大学を卒業後、石組みの名人、小宮山博康さんに師事して、26歳で独立して、今の会社「北山造園」を設立しました。
──西洋と日本の美意識の違いを語るとき、シンメトリーかアンシンメトリーかという話しがよく挙げられますが、長くフランスにいらした久岡さんはどう思われますか?
久岡:そうですね、さらに加えれば、日本料理は引き算の料理、フランス料理は足し算の料理というのも言えると思います。それから、器の成り立ちでも、歴史や空間にしても、日本はなぜこれが生まれたかなど、“目に見えるものの裏側”を考える。一方で西洋は、もっと直感的で、色合いなど、視覚的な印象が最初にくる。そこが美意識の大きな違いだと思います。