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2021.11.14 11:30

「麹発酵コーヒー」で農家支援、フィンランド人バリスタらが挑戦


そうして開発された麹発酵コーヒーはすばらしい出来だった。「深みがあり、大地や革のような香りがする」とユマンスキーは評する。「焙煎度合いによって、風味はパイナップルやマンゴーのようなトロピカルフルーツから、チョコレート、ジンジャーブレッドまで大きく変わってきます。舌触りは驚くほどなめらかで、バターのようにリッチ。まろやかでコクがあるため、風味がとても長く残ります」

樋口は自身も、麹で発酵させたコーヒーをすでに試験生産しているが、豆の果肉を使うパーヴォライネンの新しい手法に感銘を受けたそうだ。「コーヒーチェリー(コーヒーの果実)を丸ごと日本に輸入することは法律上できないので、わたしの実験では外側の部分を除いた精製済みの豆でしか麹を育てられませんでした。エル・ベルヘルのデータを見ると、特殊な機材や設備がなくても麹は豆の果肉でかなり早く育ち、健全な発酵が進んでいて驚きました」

品質の劣る豆が「麹パワー」で一変


パーヴォライネンらの新手法で特筆すべき点は、実験にあたってあえて品質が基準以下の豆を使ったところだ。「元の豆で淹れたコーヒーと、麹で発酵させた豆で淹れたコーヒーを自分たちで飲み比べてみました。違いは驚くべきものでした」(ユマンスキー)

この方法は多額の投資も必要としない。フェランによれば、一般的な株を用いたイースト菌の発酵コストが1ポンド(約450グラム)あたり0.12〜0.25ドル(約14〜28円)なのに対して、種麹は小袋1袋で35ドル(約4000円)ほどする。だが「麹は必要に応じて(コーヒー豆の)収穫量に見合った量に増やせるので、コスト効率はこちらのほうが良い」という。

麹を使ったコーヒー豆精製は画期的な手法だが、誰にとっても有用というわけではない。「申し分のない豆があるのなら、おそらく必要ないでしょう」とユマンスキーも認める。また、新手法を試すには精密な温度計の購入など多少の出費は必要になるため、たとえ有益だとわかっていても導入を渋るコーヒー豆生産者もいそうだと話す。

一方で、麹を使った精製に強い関心を示しているコーヒー豆生産者も世界各地にいる。パーヴォライネンのチームには、すでにフィリピンやタイ、ベトナム、ブラジル、コロンビア、中国の生産者から、農場で試してみたいという問い合わせが寄せられているという。

フェランによると、チームはエル・ベルヘル農場と組み、樋口のラボの助力も得ながら、この新手法を用いた未焙煎のコーヒー豆300キロを輸出向けに生産することに取り組んでいる。

パーヴォライネンは、開発した手法をコーヒー農家の支援に役立てたい考えだ。「麹発酵コーヒーには輝かしい未来が待っていると確信しています。2022年のワールド・バリスタ大会では、別の品種を用いて、さらに洗練させた麹発酵コーヒーを披露したいと思っています。人々に信じてもらえるまで、新しい手法の効果を証明し続けなくてはならないので」

編集=江戸伸禎

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