新たな「美食のハブ」に。初のミシュランガイドモスクワ注目の3店

ミシュランガイドモスクワ2022 授賞式の様子 (C) Press Service of the Moscow City Tourism Committee


モスクワ近郊の自家農園からの野菜のみならず、ロシア各地の食材を中心に、伝統的なロシア料理の味を洗練させた料理を生み出している。店はラボを併設し、白インゲン豆のペーストを原料に「3Dプリンターで作ったプラント・ベースのイカ」を、本物のイカと組み合わせ「本物と偽物のイカが2切れずつ入っているのを当ててください」と提供されるなど、ユニークなプレゼンテーションが目を惹く。


3Dプリンタで作ったイカの料理とラボでの作成風景

ワインは、ロシア国内最大級と言われるほどのセレクションで、「ペトリュス」のようなフランス銘醸ワインのヴィンテージが揃うほか、年間数千本の生産しかないという希少なロシアワインも楽しむことができる。寒冷なイメージのロシアだが、南部はイタリアとほぼ変わらない緯度で、果実味豊かなワインも多かったのが印象的だった。

ユニークなのは、野菜にワイン酵母などを加えて自家醸造した「ベジタブルワイン」。筆者はドライモリーユ茸で醸造した「モリーユワイン」を頂いたが、少し梅干しのような香りと酸味があり、親しみやすい味わいだと感じた。この他、ロシア特産の蜂蜜にウニを漬け込み、フォーム状にした新しい発想のデザートも楽しむことができる。

White Rabbit(ミシュラン一つ星)


ロシア各地でカジュアルレストランやバーなど20店舗以上を経営するホワイトラビットグループの旗艦店。「世界のベストレストラン50」では13位に入る店だ。

ビルの最上階、16階に位置し、季節ごとに異なったデコレーションが施された「不思議の国のアリス」をイメージした店内には、豊かな太陽光が差し込み、モスクワの眺望も楽しめる。グループを率いるのは、ロシア南部の料理人一家に生まれた、ウラジミール・ムーヒンシェフ。社会主義体制で画一化される前の地域に眠る豊かな食文化を取り戻そうとすると共に、デジタルテクノロジーを駆使して感情と味覚の関連を追求する、新たなアプローチを行っているのが印象的だ。

例えば、プレデザートのリンゴのソルベは、本物のりんごの器にQRコードのシールが貼ってあり、ゲストが自分の携帯でそれを読み込むと、画面上に人の顔が浮かび上がり、音楽が流れる。


携帯に浮かび上がる酸味を表す表情とリンゴのソルベ

最初は苦しんでいる表情の緑色の顔、音楽も不安を煽るような音楽。そして次には、幸せな表情のピンク色の顔と、川のせせらぎのような、リラックスした音楽が流れる。最初は酸味を強く感じたソルベが、次には甘く感じられる。何を見聞きするかによって人の感情は影響され、それが味覚にも影響する、ということを示そうとする、シェフ独自のアプローチだ。

焼き立てのパンが提供される際には、ロシアの農村で行われてきたという伝統的なバター作りの手法で、ゲストが自らバターを作る体験が盛り込まれている。ロシアの食文化がきめ細かく織り込まれ、革新を生み出すと共に、伝統を未来につなげたいというシェフの思いを感じることができる。
次ページ > マンゴーの味を焼きリンゴと茹でたカボチャで再現

文・写真=仲山今日子

ForbesBrandVoice

人気記事