プロジェクトには、失敗したら責任を取れる役員クラスの協力が必要。自分1人で責任を負えるわけではないため、プロジェクトチームをつくって検討したり、シナリオを描いたり、金額の上限を決めるなどして取り組むしかない。当然、次々と出てくる反対意見や問題点の指摘にも対応せねばならない。
まず本社の新保険商品戦略を担当する部長がシリコンバレーまでやってきた。Hippoに対する疑問点や見通しの甘さをガンガン言われ、佐藤には詰めるべきポイントを指摘された。
次にDX戦略を担当する部長と一緒にHippoを訪れたが、ミーティングの結果、佐藤がセールスポイントとして強調してきたIoTセンサーはおまけに過ぎず、もっと本質を見るべきだと説かれた。
佐藤は、これはキビシイ指摘だと思ったそうだが、本社にいる直属の上長が、それらへの回答や説得などを、経営陣にすぐ分かるように咀嚼し、いわば通訳としてサポートしてくれたという。
そうしたやりとりがあった結果、前述のDX戦略の担当部長が、自分が担当すると手を挙げてくれた。彼は、本社をはじめとするグループ全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に繋がる点を見極め、Hippoは保険の根底を変えるDXができると考えたのだという。
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例えば、日本では都道府県ごとの災害での保険の値付けを、Hippoは郵便番号単位で実現しており、また事故が起きないようにするサービスを提供しているといった点も高く評価された。
また、同じく佐藤に辛口だった新保険商品戦略の担当部長も、経営陣の合意形成に動いた。佐藤に、「本気でやりたいのだろう、応援する」と、社内の説得にはこう話せなどと助言してくれたという。
そしてついに、2020年11月に、Hippoへの大型投資と再保険パートナー契約を発表するに至った。いまや三井住友海上保険をはじめとするMS&ADグループはHippoの第3位の株主だ。
Hippoは、米国の企業をはじめ強力な候補がいたなかから、MS&ADグループをメインの戦略パートナーとして選んだ。
その理由としては、MS&ADグループが米国では法人向けだけの営業で個人向けをやっておらず競合しないこと、他にアジアの会社は候補になく将来の展開の布石として、そして長期的な視点で好ましいと考えたことが挙げられる。そして、それ以上に決め手となったのは、佐藤をはじめとするグループの人々への信頼だった。
Hippoとの連携は、単なる資本業務提携にとどまらない。MS&ADグループからは5名が5つの部署に駐在し、佐藤は社外取締役(オブザーバー)となった。
ニューヨーク証券取引所でのIPOでは、Hippoの経営トップと一緒に上場記念の鐘を鳴らした佐藤だが、それより感動したのは、記念写真の撮影に呼ばれ、アサーフCEO自らが涙目で「お前がいてくれたおかげだ」と喜んでくれたことだったという。
そして、今回の提携で得たものは、Hippoを中心としたインシュアテックのエコシステムへの「入場券」だった。人間関係で繋がるシリコンバレーでは、大企業の看板や膨大な資金があろうとも、そのエコシステムの傍流にしか近づけないが、今回の連携はメインストリームへと参加する価値あるものとなったのだ。
連載 : ドクター本荘の「垣根を超える力」
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