ビジネス

2021.10.05

米インシュアテックのHippo社と三井住友海上、戦略提携の舞台裏

ニューヨーク証券取引所に上場した際のHippoのアサーフ・ワンCEO(中央)と佐藤貴史(右)

近年、多くの日本の大企業がスタートアップとの連携に取り組んでいる。なかでも、2020年11月のMS&ADインシュアランスグループに属する三井住友海上火災保険による米国のユニコーンHippo Enterprises Inc.(以下Hippo)への3億5000万ドル(約380億円)の投資は、大きな注目を集めた。

今年8月ニューヨーク証券取引所へのIPOで、上場企業となったHippo。米国トップのベンチャーキャピタルであるアンドリーセン・ホロウィッツのパートナーが、「これまで逃した最も惜しい案件は?」の問いに「Hippoだ!」と即答したように、AI保険のリーダーとして有望視されている。

この米国でも躍進著しいHippoと三井住友海上火災保険はどのようにして「縁組み」するまでに至ったのか、その出会いから提携までのストーリーは、まさに「ドラマ」とも言える興味深いものだった。

これまでにないユニークなAI保険会社


2017年5月に米国シリコンバレーに赴任し、2018年10月からMS&AD Ventures社を立ち上げ、Managing Partnerとして米国をメインに世界のスタートアップへの投資活動を続けている佐藤貴史は、日本にいたときからHippoは面白そうな会社だと思っていたという。

カリフォルニア州パロアルトに本社を置くHippoは、ITで保険を革新するインシュアテックの有望企業だ。AIによって契約者の被害を最小限に抑える「減災」などに特徴がある。

創業者でありCEOを務めるアサーフ・ワン(Assaf Wand)氏は、イスラエルで保険の大手代理店を経営していた父親を見て、保険のあり方をテクノロジーで革新したいと考えていた。シカゴ大学でMBAを取得して、カリフォルニアでスタートアップを創業、それを売却した後、2015年にHippoを起業した。

Hippoは、顧客全員にIoTセンサーを配ったり、保険のかかる家を修理する子会社をつくったり、従来のあり方を転換するようなユニーク取り組みを展開している。

例えば、屋根の温度を画像解析して、隙間があるから修理してはと案内したり、事故があったら早く正確に対応したりするだけでなく、事故が起きないようにも努めている。

Hippoのウェブサイトに住所を入れると、自分の家の情報(何年に建築して、屋根の材質やいつ修理したか、以前に住んだ人の保険利用の記録など)のデータを引っ張ってきて見せてくれる。

また、ペットを飼っていると、ホームパーティなどでゲストに噛みついて怪我させることが心配だ。ほとんどの保険では、このケースは免責(保険の対象としない)となるが、Hippoは犬のデータを分析して、こういう種類の犬のメスは噛まないからと保険の対象としている。

あるいは、庭の木の角度から隣家に倒れるリスクを示したりして、とにかくデータを駆使して保険の新たな顧客体験を実現している。

いきなりCEOからの共同買収提案


たとえ大企業の看板があろうとも、強力な伝手やコネクションがなければ、いまをときめくスタートアップの起業家には会えないのがシリコンバレーの常識だ。米国赴任当初の佐藤はまだHippoのトップに会える立場でもないと、地道に起業家たちのつながりに入り込む活動を積み重ねていったという。

2019年の夏に、投資先のイスラエルの起業家が、HippoのアサーフCEOと面識があるとわかり、この関係を介してようやく初のミーティングが叶った。そこで佐藤に驚くべき提案があったという。
次ページ > 「2週間で決めて欲しい」

文=本荘修二 編集=松崎美和子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事