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2021.09.27 11:30

社会貢献と社員の幸福は両立する。「制約」が生んだ奇跡の技術史

小川恭範 セイコーエプソン代表取締役社長 CEO


昨年4月の社長就任時、打ち出したメッセージがあった。それは、そもそも会社は何のためにあるのか、という問いかけだった。
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「それまではあまり会社はそういうメッセージを出していませんでした。私自身、若い頃は自分の稼ぎのために働くものだと思っていました。しかし、マネージャーの立場になると、考え方が変わっていきました」

会社が社会に役に立っているといいな、という思いは持っていた。また、社員のみんながイキイキと働いていたほうがパフォーマンスが出せることに気づいた。「よきサイクル」の発見があったのだ。

「結局、社会貢献と社員の幸せこそが、企業の目的なんじゃないかと。それをどう作っていくか、ということだと思ったんです」
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両者は密接につながっていた。社会貢献をすることは、社員の幸せにもつながっていく。会社に収益を生み、社員に自信や誇りを生む。そして社会貢献していくためには、いろんなヒントを手にする必要がある。

「そのために多様な人、多様な考えを持っている人を生かしていく、ということです。多様性は発展の源泉なんです」

発展は結果として収益を生む。収益があれば、もっと社会貢献ができる。それはまた社員を幸せにし、社員をモチベートする。いいサイクルが生まれていくのだ。 それにしても、会社の存在意義をいきなり問う社長というのは、なかなかいない。

「誰も言わないし、どこからも出てこない、ですよね。でも、会社は人で成り立っています。彼らがイキイキと働けたほうがいいじゃないですか。企業の発展にも絶対につながる。だから、社長になったら言おうと思っていたんです(笑)」

自身は、モノの豊かさが幸せだという時代を過ごした。しかし、世の中が成熟する中で、豊かさの価値観が大きく変わろうとしていたことに早くから気づいていた。

「物質的な満足というよりも、社会貢献にモチベーションを感じている人はとても増えています。満足感や幸福感をどこに求めるか、という変化だと思います。社会に貢献したり、人に貢献することこそが幸せ。それが理解されるような世の中になってきた。モノの豊かさも大事ですが、最後はやっぱり心の豊かさだと私も思うんです」

マネジメントスタイルも大きく変えようとし進めている。どちらかというとトップダウンが中心だったというが、現場の自主性を上司がサポートすることを重視し始めている。やらされるのではなく、自らやりたくなる環境を作ることで好循環は生まれる。

エプソン・チームラボのイベント写真
森ビル デジタルアート ミュージアム:「エプソン チームラボボーダレス」は2018年からの取り組み。施設面積1万m2に500台を超えるプロジェクターを導入。境界のないアートが多くの来館者を呼ぶ。クオリティに定評のあるレーザー光源プロジェクターは、電力と寿命の効率が格段に高くエコな環境を同時に実現している。

「仕事をやっていて楽しいかどうかは、すごく重要です。楽しいからいろんなアイデアも出るし、もっとよくするにはどうすればいいか考える。そういう空気が沸き上がってくるような風土を作りたかった。そうすれば、全体としてのパフォーマンスも間違いなく上がると思っています」

思い切った取り組みや変革は、ともすれば内外のステークホルダーからの懸念や反発を招くリスクもある。しかし、バランスは必然的にできてくる、と小川は語る。

「最も大事なことは、バランスだと思っています。例えば、社会貢献と社員の幸せのバランス。社会貢献だけやって、社員に報いない経営をしたら、長続きはできない。両者がバランスしていないとうまくはいかない」

環境に投資しているけれど、利益が出ないのはバランスの悪さだ。どうすればバランスできるか、考えていけばいい。

「注意する必要があるのは、一時的な目線で見てしまわないことです。一時的にはバランスが崩れていても、長期の視点で見たときにうまくバランスできるなら、間違いではない。それは目指すべき方向です。持っておくべきなのは、長期での大きな方向性なんです」

リーダーがバランスのとれる長期ビジョンを描けるか。これからの時代は、ますますその重要性が高まることは間違いない。

小川社長の写真
おがわ・やすのり◎東北大学大学院工学研究科を卒業後、セイコーエプソン入社。研究開発本部、プロジェクター関連に従事。同社初のビジネスプロジェクターを開発。2017年執行役員。2018年に技術開発本部長。その後、取締役常務執行役員を経て2020年に現職。愛知県出身。

文=上阪徹 写真=ヤン・ブース

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