セイコーエプソンのイメージを、時計やプリンターと感じている人は多いだろう。だがこれは同社の起点であり、主力商品の一部でしかない。2020年より社長となった小川恭範は、同社の創業以来の環境理念を引き継ぎ、新たな解釈とともにリーダーシップを発揮する。技術力と人が生むサステナビリティはなぜ定着したのか。
Forbes JAPAN 11月号の「AIが厳選!最強のサステナブル企業 100」特集で総合1位に選ばれたセイコーエプソンでは今年3月、まさに企業姿勢を象徴する出来事があった。
2026年3月期を最終年度とする10年間の長期ビジョンを大胆に改定したのだ。目指す姿を再定義して新しいビジョンを打ち出し、新たな経営指標などを策定したことにもインパクトがあったが、驚かされたのは、1兆7000億円としていた最終年度の売り上げ目標について、数値目標を明らかにしない、としたのだ。小川はこう語る。
「数値目標の危うさは、ともすれば、それ自体が目的になり、短期思考になってしまいかねないことです。それよりも、長期的に我々は何をしないといけないのか、ビジョンを大事にして、持続的に価値を生み出していくことが大切になると考えました」
上場会社で数値目標を明らかにしない会社は珍しい。しかし、数値目標だけではない。企業活動の根底から見直すことにしたのだ。
1 技術の探究は環境に寄与する
2 長期視点は持続的価値を生む
3 社員の幸福と社会貢献は連動している
「世の中が大きく変わっていく中で、会社としての発展の仕方も見直していく必要があると考えました。プリンターやプロジェクター、電子デバイスや精密機器など、もともと技術を中心とした会社でしたが、いいものを作れば売れる、という発想が強い会社でもありました。そうではなくて、社会課題をしっかり捉え、我々の技術を使ってどう解決していくのか、という発想に切り替えていくことにしました。
そのためには、すべて自前でやろうとするのではなく、パートナーと協力しながら共創していくというやり方も取り入れていく。企業のあり方、考え方のもとから変えていくということです」
企業として自分たちに今、何が求められているのか。持続可能な社会と経済の両立をさらに深めていくため、これまで以上に大胆に舵を切ったのだ。改定は、内外で前向きに受け止められている。背景には、セイコーエプソンが早いタイミングで、社会との共存を見据えてきた企業であることも大きい。「環境ビジョン2050」を策定したのは、実に2008年。
まだESGという言葉は一般的ではなく、SDGsという言葉もなかった10年以上も前のことだ。