「諏訪湖のほとりで時計の製造から事業を始めたのがセイコーエプソンでしたが、創業者は湖を絶対に汚してはいけないという強い信念を持っていました。その歴史が、間違いなくベースにはあると思います」1980年代後半には、フロン全廃という目標を掲げ、90年代前半に世界に先駈けて達成している。これが、社員の意識をより強いものにした。
諏訪湖のほとりには本社がある。諏訪湖を汚してはならないという創業当時からのポリシーが生まれた場所だ。現在、長野県内には本社以外に9カ所の事業所があり、自然エネルギーなど環境に配慮した要素を持つ。
「当時現場では大変さもいろいろありましたが、やればできるんだ、という自信を社員は持ちましたね」。環境に対して正しいことをしているのだという強い意識は、その後も脈々と受け継がれる。
「振り返ってみると、省スペース、省エネ、小型、精密、機械加工、プロセス技術など、我々の持っている技術は、環境にいい技術だったんです。モノを作ることは、なにがしか環境に影響を与えてしまいます。しかし、環境を汚しながらいいモノができました、ということでは許されない。環境に貢献し、環境に優しいモノを作っていくという、環境と経済活動の両立は、常に我々の経営の中心にありました」
そして環境への意識は一方で、会社の技術力を高めることにもつながった。新しい時代に求められているモノづくりは、すでに始まっている。例えば、紙のリサイクル。
水を使わずに、使用済みの紙や処分された洋服などの繊維をほぐし、新たな繊維素材に作り変えるエプソン独自の技術「ドライファイバーテクノロジー」。ほぐした繊維に抗菌剤などの機能添加剤を加えて、高機能な素材を作ることもできる。繊維は、製造プロセスや用途に合わせて板状などに加工も可能。循環型エコノミーを生む優れた技術。
「主力事業のプリンターを使えば、どうしても紙を使います。そこで、オフィスの中で紙を再生するペーパーラボを開発しました。紙を作るには大量の水を使いますが、水がいらない乾式製紙機です」
紙は環境に負荷をかける。しかし、紙を必要とする人もいる。そこで、オフィスでリサイクルする機器を生み出したのだ。
「一方でプリンターのインクジェット技術は、捨てない技術と我々は呼んでいます。液晶パネルの製造装置などでは、回路基板を使うのですが、多くの廃棄物が出る。インクジェットプリンタ技術で書くことで、製造過程で多くの廃棄物を出さずに済むようになります」
有機ELディスプレイの製造過程でも、微細なパターンにインクジェット技術が使われている。また、フレキシブルケーブルへの技術応用は、ベンチャー企業とまさに“共創”が行われている。
「いろんなパートナーと組んでいくことで、まだまだ可能性が広がると思います。だから、“共創”をもっともっとやっていきたいんです。一緒にいろんな使い途を考えてほしい」
2030年までの10年間で環境関連に1000億円を投じることも発表している。根底にあるのは、商品やサービスがすべて環境に貢献できるようにしようという考え方だ。
「お客さまに価値を提供するというより、我々が環境を汚さないための投資、資源を循環させるための投資が半分ほどを占めることになると思います。そのための技術開発を行う。紙のリサイクルに加え、金属の再生技術にも取り組んでいますが、こういうことをやっていこう、と社内に呼びかけると、社員から次々に手が挙がる会社なんです。特に若い人たちの意識は本当に高いですね」