デンマーク映画「アナザーラウンド」は、高校の同僚教師4人が、とにかく酒をずっと飲み続けるという斬新な設定の作品だ。もちろん教師であるから、授業中であろうと、休み時間であろうとずっと飲酒した状態を持続している。
学校内で彼らが隠していた酒の瓶が見つかり、職員会議で「生徒の飲酒」として問題となっても、4人はどこ吹く風。どうやら北欧系の人々は、少々の飲酒をしたところで顔になど出ないらしい。そのまま酒を飲むことをやめない。
それぞれ歴史、心理学、体育、音楽の教師である4人を、飲酒へと駆り立てているのは、実は作中でも紹介されるノルウェーの哲学者フィン・スコルドゥールの「人間は血中アルコール濃度が0.05%足りない状態で生まれてきている」という理論だ。
彼らはこれを、ならば不足している血中アルコール濃度を0.05%に保てば、リラックスした状態となり、気持ちにも余裕ができ、仕事にも前向きに取り組めるのではないかという仮説を立て、自らの身体をもって実証実験を始める。前述のチャーチルや作家のヘミングウェイ、作曲家のチャイコフスキーなど、酒豪でありながら一角の仕事を成し遂げた有名人たちの存在に心を強くして。
血中アルコール濃度0.05%の実験
マーティン(マッツ・ミケルセン)は、高校で歴史を担当する教師だったが、家では妻や2人の息子たちとすれ違いが生じており、授業にもまったく身が入らなかった。生徒たちからも、そのやる気のなさを指摘され、挙句の果てに父兄たちが学校に駆けつけ、糾弾される始末だ。
心に葛藤を抱えたまま、同僚の心理学の教師ニコライ(マグナス・ミラン)の誕生日ディナーに出かけたマーティン。他に集まったのは、同じく同僚である体育教師のトミー(トマス・ボー・ラーセン)と音楽教師のピーター(ラース・ランゼ)で、4人で祝杯を挙げようとするなか、マーティンだけが水にすると酒を断る。
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その日の主役でもあるニコライが、マーティンに「君に欠けているのは自信と楽しむ気持ちだ」と進言し、前述の血中アルコール濃度0.05%の理論を持ち出して、酒の効用を説く。酒を飲めば欠けていたものを取り戻し、気分も晴れやかになると一同からも促され、ようやく酒杯を傾けるマーティンだったが、いつのまにか快い酔いが彼の気分を高揚させていた。